写真:John McCoy / 特派員

 メジャーの野球の歴史を塗り替えまくっている。先頭打者ホームランで自己最多の47号を記録したのち、第2打席に四球で出塁すると48個目の盗塁を決めた。

 これで「ホームラン47-盗塁48」とメジャー記録をまた更新。バッターとピッチャーの二刀流ばかりか、投げれないとなれば走ると言わんばかりのプレーから、大谷翔平の能力を疑うものはもう、誰もいないだろう。

 12年前。希望していた「メジャーリーグ」ではなく、北海道日本ハムファイターズに入団を決めた大谷翔平に対して「二刀流」を宣言したファイターズとその指揮官・栗山英樹は大きな批判にさらされていた。

「無理やり指名した」「プロで二刀流ができるわけがない」「高校出たての選手に何を…、プロを舐めてるのか」……。

 しかし、栗山英樹はいっさいブレなかった。

 事実、入団が決まったあと、まだキャンプインもしていない頃、大谷翔平についてこう書いている――。

 総ページ848。「大谷翔平はやっぱりすごい。でもこれだけの人が彼を生かしたんだと思うと感動を覚えました(40代・男性)」などと、大きな反響を呼んでいる栗山英樹氏の新刊『監督の財産』からその時の思いを紹介する。

メジャーにない日本プロ野球の長所

(『監督の財産』収録「3 伝える。」より。執筆は2013年1月)

 日本の野球が、世界に誇れるものはふたつある。

 ひとつは、高校野球という文化によって育まれてきた精神性。「魂」と言い換えてもいい。

 日本の場合、プロ野球選手は、ほぼ全員が高校野球を経験してきている。全国どこにいても、誰もがみな、甲子園という唯一無二の舞台を目指し、1日でも長く同じ仲間たちと野球をやるために、全身全霊を傾けてきた。

 そして、そのまま大人になる。そのまま大人になった選手がプロ野球をやっているから、そこには死に物狂いになってやる、高校野球の精神がしっかりと息づいている。そういうプレーというものは、観ている人たちの心に、必ずなにかを訴えてくれるはずだ。

 もうひとつは、日本のオリジナルといってもいい世界最高峰の技術である。強く振れなくても、柔らかくバットをコントロールして、芯と芯とをぶつける能力だったり、捕った瞬間に素早く投げる動きであったり、そういった技術は間違いなくメジャーより上だと思う。

 ただ、パワーに代表される身体能力は、相対的に見てメジャーが上回っているので、向こうにはすごい選手がいるんだというふうに見えているだけだ。

 すべてが一番だとはいわないが、日本には世界に誇れる技術がある。そこには自信を持っていい。

 だから、これはあくまでも僕の野球観だが、本当に野球がうまくなりたいなら、絶対に日本で学ぶべきだと思う。最後にどこでプレーするかは自分で選べばいい。ただそこまでは、日本のお家芸である野球の技術を身に付けてほしい。