原油価格の下落が世界の景気後退入りを先取り

 2008年と2020年はいずれも世界の原油需要が急減した時期だ。そのせいで、2008年から2009年にかけて原油価格は1バレル=120ドル台から30ドル台と急落した。2020年には70ドル台だった原油価格は史上初のマイナスの値を付けるという前代未聞の事態となってしまった。

 景気後退入りすれば、米国の原油需要も低調になるのは確実だ。足元の原油価格の下落傾向は世界経済の景気後退入りを先取りしているように思えてならない。

 世界の原油需要が減少すれば、21世紀に入って3度目の原油価格の急落が起こる可能性は排除できなくなる。原油価格は1バレル=50ドルを切る展開もありうるだろう。

 原油安は日本経済にとってはプラスだが、中東産油国の財政を悪化させる。特に心配なのは、日本の原油の約4割を供給しているサウジアラビアだ。

 次期国王とみなされるムハンマド皇太子が掲げる「ビジョン2030(脱石油経済化政策)」を推進するためには原油価格は1バレル=約100ドルでなければならない。原油価格のさらなる下落で財政が火だるまとなり、政情が不安化すれば、原油の円滑な供給に支障が出てしまうかもしれない。

「過ぎたるは及ばざるがごとし」ではないが、原油価格の急落は日本にとっても必ずしも望ましいことではないのではないだろうか。 

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。