日本の宇宙関連スタートアップであるシンスペクティブのSAR衛星「StriX」ⒸSynspective

 民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。

 第8回は、地球上のさまざまな経済活動を可視化する注目技術「衛星リモートセンシング」のビジネスにおける活用事例を紹介する。

宇宙から石油備蓄量を観測する

 人工衛星を活用したビジネスに資金が集まっている。特に注目されているのが「衛星リモートセンシング」技術を生かしたデータサービスだ。地球上のさまざまな経済活動を可視化するこの技術からは全く新しいソリューションが提案されている。衛星から得られるビッグデータを個々のビジネスにマッチングすることで、過去にないビジネスが生まれようとしている。

シンスペクティブのSAR衛星「StriX」が撮影したケニアの「キペヴ・オイル・ターミナル」。マイクロ波によるこの画像の分解能は国内最高レベルの25cm。ⒸSynspective

 リモートセンシングとは、モノに直接触れることなく、遠隔から観測する技術を意味する。センサーは航空機に搭載されることもあるが、人工衛星に載せる場合は特に「衛星リモートセンシング」、略して「衛星リモセン」と呼ばれている。

 衛星リモセンの活用事例としては、石油の備蓄量観測が知られている。石油タンクは貯蔵量が減ると天井が下がる仕組みになっているが、その状態を地球観測衛星から観測することによって備蓄量を推測するのだ。SAR(合成開口レーダー)と呼ばれるマイクロ波センサーを搭載した衛星などによって、石油タンクの天井の上下位置を検出する。

 こうした衛星は、地球を南北方向に周回する「極軌道」に投入される。この軌道を航行すれば、衛星が極軌道を周回する間に地球が東へ自転するため、地球上の全ての地表を観測できるからだ。一定期間が経過すると衛星は元の地表上空に戻ってくる。これを長期間繰り返すことで同一エリアのデータが連続的・継続的に取得できる。

 先進国の石油備蓄量は他の情報からも分かるが、経済協力開発機構(OECD)に加盟していない途上国や共産圏のデータを正確かつ常に入手することは難しい。そのため衛星リモセンによる衛星データに需要が生まれる。このデータがあれば、先物市場における原油価格をより正確に予測できるからだ。

 石油貯蔵量に関する衛星データは、米国のウルサ・スペース・システムズなどが販売している。同社の場合は世界1000カ所以上、2万基以上のタンクを継続観測したデータを持ち、クラウド上で週1回のサブスクサービスを展開している。