トランプ氏への支持を表明したイーロン・マスク氏=左=2017年撮影(写真:AP/アフロ)
  • 11月の米大統領選では、テクノロジーによって自由原理主義を追求しようという「テクノ・リバタリアン」たちがトランプ支持を相次いで打ち出している。
  • なぜ、イーロン・マスク氏らテクノ・リバタリアンは共和党に近づくのか。『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』(文春新書)の著者、橘玲氏に話を聞いた。
  • 橘氏は、テクノ・リバタリアンが生息するシリコンバレーの「右傾化」を指摘する。民主党政権下で加速した平等主義と根本的に相容れないのだいう。どういうことか。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

>>【前編】【米大統領選】「ヒルビリー」バンスと投資家ティールの奇妙な関係、テクノ・リバタリアンはなぜトランプ支持

シリコンバレーの“本音”

──ティール氏は2016年にトランプに資金援助をし、バンス氏が2022年に上院議員選に立候補した際には1500万ドルもの選挙資金を出しています。他にも、イーロン・マスク氏はTwitter(現X)買収後、保守的な論陣を張っています。シリコンバレーで今、何が起きているのでしょうか。

橘玲氏(以下、敬称略):もともとシリコンバレーの人たちは政治的にはリベラルですが、経済的には自由市場への政府の介入を嫌うリバタリアン(自由原理主義者)です。近年の“右傾化”は、リバタリアンの側面が前面に出てきたと考えられるでしょう。

 シリコンバレーの大物たちはなぜ、次々と民主党政権から距離を置き始めているのか。それは、民主党の左派(レフト)が突きつけるポリティカル・コレクトネスにつき合っていけないからだと思います。

橘 玲(たちばな・あきら) 作家
1959年生まれ、2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年刊行され、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30 万部を超えるベストセラーに。2006年、『永遠の旅行者』が第19 回山本周五郎賞候補作となる。2017年、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で新書大賞受賞。近著に『世界はなぜ地獄になるのか』、『テクノ・リバタリアン』など。

 トランプを支持する白人労働者階級の世界観は、アメリカの階級を4層で考えるとわかりやすいと思います。一番下にいるのは自分たちプアホワイトで、有色人種を「不当に」優遇するアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)によって、不公平な競争を強いられています。その上にいるのが黒人などのマイノリティで、ニューヨークや西海岸にいるリベラルなエリートと連帯しています。

白人労働者階級が持つアメリカ社会のイメージ拡大画像表示

 プアホワイトがリベラルを憎悪するのは、知識社会から脱落したプワホワイトのことをリベラルが「ホワイトトラッシュ(白いゴミ)」などと馬鹿にしているからです。しかし、この階級の頂点に君臨しているのは、数兆円、数十兆円のとてつもない富をもつ「テクノ・リバタリアン」たちです。