パワハラをしている本人には自覚がないことも多い(写真:kapinon.stuio/Shutterstock)

ハラスメントに関する報道が途切れません。斎藤元彦・兵庫県知事によるパワハラ問題は大きなニュースとなっていますが、全国ニュースにはなっていないケースも多々あります。2024年8月に限っても、市長によるパワハラ(秋田県鹿角市)、女子学生に対する指導教官のセクハラ(岡山大学)、部下へのパワハラで消防士長を懲戒(福岡県大牟田市)といった出来事が相次ぎました。そもそもハラスメントにはどんな種類があり、私たちはどのように対処しなければならないのでしょうか。ハラスメントの種類をひもときながら、その対策の最前線をやさしく解説します。

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法令で定義されたハラスメントの5類型

 部下へのパワハラなどを問われている兵庫県の斎藤知事は2024年8月30日、兵庫県議会の百条委員会に証人として出席し、尋問のなかで「(部下には)大きい声でそれなりに強く指摘したと思う(がパワハラではない)。合理的な指摘だったと認識している」などと述べました。これに対し県民からは、パワハラに対する認識や自覚がほとんどなく自分に甘すぎる、との強い批判が出たようです。

 斎藤知事の問題に限らず、ハラスメント(嫌がらせ、いじめ)問題では加害者側にその認識がほとんどないことが問題とされていますが、ハラスメントは単なるモラルや道徳の話ではなく、法的な問題であることをまず押さえておく必要があるでしょう。法律の専門家によると、あらゆるハラスメントは民法による不法行為(他人の権利や法律上保護されるべき利益を侵害する行為)となる可能性があり、損害賠償請求の対象になります。

 これとは別に、法令で定義されたハラスメントもあります。その類型は5つ。以下、順を追ってみていきましょう。

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 ハラスメントで最も広く知られているものは「パワーハラスメント(パワハラ)」でしょう。これは、職場内での優位性や地位を利用し、労働者に対して正当な範囲を超えた叱責をしたり、業務を行わせたりすること。厚生労働省のガイドラインによると、パワハラには①身体的侵害、②精神的侵害、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個人の侵害という6つの類型に分けられています。

 このパワハラについては、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法、2020年6月施行)によって、企業(事業主)には対策が義務化されました。具体的には「パワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発」「相談体制の整備」「被害を受けた労働者への迅速かつ最適なケアや再発防止」などで、これらを怠った場合、厚生労働大臣の是正勧告や企業名の公表などの対象となります。

 パワハラと同じように、次の4類型のハラスメントも法律で定義づけられ、企業側に対策を義務付けています。

▶セクハラ(男女雇用機会均等法)
セクシャルハラスメント。職場での優越的地位を利用するなどして性的嫌がらせをすること。

▶マタハラ(育児介護休業法)
マタニティ・ハラスメント。女性に対し妊娠・出産をきっかけに、精神的・肉体的な嫌がらせや解雇、雇い止めなどの不利益な扱いを行うこと。

▶パタハラ(育児介護休業法)
パタニティ・ハラスメント。男性が育児時短や育休を請求したり取得したりすることで不利益な扱いや、嫌がらせを受ける言動。

▶ケアハラ(育児介護休業法)
家族などの介護によって残業を拒んだり休んだりする労働者に対し、嫌がらせや不利益な処遇を行うこと。

 例えば、ケアハラの場合、介護休業は育児介護休業法で認められた労働者の権利ですから、それを侵害する行為は同法違反となります。パワハラを含むこれら5つのハラスメントは法律に明確な規定があるため、その他のハラスメントよりも対策の方向性や枠組みが明確だと言えるでしょう。

 しかし、ハラスメントの種類はこれに留まりません。いったい、どんなハラスメントがあるのでしょうか。