羽田空港の周辺の空域は、隣接する横田基地の空域(横田空域)、そして成田空港の空域とも隣接していて、自由な飛行ルートが設定しにくい事情がある。特に横田空域の存在は問題で、その領域には日本の航空機は許可なしに進入することさえできないのだ。
そのため、日本の航空機は、この空域を避けるために大幅な遠回りをするか、離陸後に急激に上昇して当該空域の上空を通過しなければならない。西日本から羽田空港に向かう便を利用した人の中には、大島上空から千葉県の房総半島を通過し、それから反転して首都圏上空を経て羽田空港に着陸するというルートを通ったことがある人も多いだろう。
なぜまっすぐ羽田空港に最短距離で向かわないのか、腹立たしく思った人もいるはずだ。航空会社としても、最短距離で飛んだ方が燃料コストも安くつくし、定時性も確保しやすい。
だが、日本は、これからも横田空域の存在を前提とした航空行政を行っていかざるを得ないだろう。アメリカにとっては、首都圏に近い場所に拠点を置くことは政治的にも軍事的にも極めて大きな意味をもち、今後もこの空域を日本側に返還するということはまず考えられないからだ。
石原慎太郎氏が東京都知事だった時代には、東京都は、横田空域の返還を求める運動を行っていたが、交渉の当事者の国土交通省の話では、アメリカ側はこのテーマの交渉には全く応じなかったということであった。
第5滑走路を建設すれば現状の混雑問題は解決できるという主張も見受けられるが、「空域問題」が横たわる以上、その効果は限定的で、遅延の問題の解消にはなかなかつながらないだろうと考えられる。そもそも第5滑走路を建設できるような場所を見出すこと自体が難しいし、この厳しい財政の中、滑走路建設のための巨額の資金をどのように工面するかという問題も重くのしかかる。
「乗客の権利」を侵害する福岡空港の「門限問題」
遅延が常態化しているのは羽田だけではない。福岡空港や那覇空港などの地域の中心的空港も、特有の問題を抱えている。
福岡空港は羽田空港以上に都心からのアクセスがよく(博多駅まで地下鉄で5分、天神駅まで10分ほど)、世界でも有数の利便性の高い空港といえる。そして福岡はアジア諸国に近く、特に韓国からの来訪者が多い。
そんな福岡空港であるが、滑走路は1本だけであり、しかも市街地に近いため、騒音対策の必要性から、運用時間は7時から22時までに制限されている。この制限のために、最近では大きな注目を集めた「事件」があった。
2023年2月、羽田空港を18時30分に出発予定だった航空機が約1時間半遅れたために福岡空港の「門限」にひっかかってしまい、関西空港にダイバート(行先変更)し、さらにそこから出発地の羽田空港に戻ったのである。羽田空港に帰り着いたのは、深夜2時50分であった。
この間、乗客は狭い機内に長時間にわたって「閉じ込められた」ことになる。これは、日本では論じられていなかったが、欧米で主張されてきた「パッセンジャー・ライツ(乗客の権利)」を侵害するものでもある。
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