将来に禍根を残しかねないパウエル議長の認識

 今回、パウエル議長の講演の中で特に目立ったのが、労働市場に対する評価の弱さだ。

 パウエル議長は労働市場の現状について「cool(冷え込み)」という形容詞を何度も使って説明している。とりわけ注目されたのが「We do not seek or welcome further cooling in labor market conditions(私たちは労働市場のこれ以上の冷え込みを求めないし歓迎もしない)」の一節であり、労働市場がこれ以上冷え込むことに関し、許容しないと明言している。

 これは今後に対して禍根を残す可能性もあるように感じられた。というのも、前月比で大きく悪化が始まったとはいえ、7月時点の失業率は4.3%であり、歴史的に見ればかなり低い。

 図表②に示すように、自然失業率と見なされるFRBスタッフ経済見通し(SEP)における長期失業率(中央値)は6月時点で4.10%だった。これはパンデミック前の直近3年間(2017~19年)平均である4.43%、もしくは直近5年間(2015~19年)平均である4.63%よりもはっきり低い。

FOMCメンバーが想定する長期的な失業率見通し(中央値)
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 この水準を基点として「これ以上の冷え込みは許容しない」が基本認識になってしまうのだとすると、見通せる将来において、FRBが緩和路線を強いられる不安はないだろうか。