「厳しすぎる」「不十分」…非難続く日々

 原子力規制委員会の当事者は、日本の原発規制をどう考えてきたのでしょうか。規制委側は、独立性と公開性こそが最も重要だとする一方、科学的でない見解や動きには一貫して否定的な姿勢を貫いてきました。

 初代委員長として2017年までの5年間、そのポストに就いていた田中俊一氏は、退任あいさつで、おおむね次のように語っています。

「原子力の平和利用は、核の軍事利用を廃し、原子力利用の安全をかたくなに追求する文化とシステムが無ければ成り立たないものですが、安全神話への慣れと裏腹に原子力安全に対する注意力が年々薄れていました。原子力科学技術という文明の果実をただひたすら享受することに明け暮れてきた結果が東京電力福島第一原子力発電所の事故であり、そのツケがわれわれに課せられたと言えるかもしれません」

「原子力利用における意見は多種多様です。私どもに対する意見は必ずしも科学的ではなく、時には暴力的でもあります。5年間の取り組みを通して私たちの基本姿勢は社会に認知されつつある半面、新規制基準の適合性審査や再稼働が具体化するにつれ、様々な意見が寄せられるようになってきました」

「例えば、新規制基準の要求は過大である、あるいは原子力規制委員会の判断は独善的であるといった意見の一方、審査に合格した原発は安全か安全でないのか、安全が担保できないのであれば原発の稼働は認めるべきでない、あるいは避難計画には実行性がないといった、私どもから見ると安全神話への回帰をほうふつとさせるような意見が後を絶ちません」

 これとは別に、田中氏は退任後、報道機関のインタビューに答え、電力会社側には「厳しすぎだ」「やりすぎ」と言われ、原発に反対する人びとからは「不十分だ」と非難され続けた日々を振り返っています。

 前述したように、原子力規制委員会は原発の稼働をストップさせるための組織ではありません。あくまでも、それぞれの原発が新規制基準に適合しているかどうかを技術的・科学的に審査する組織です。

 田中氏の目からすれば、原発を稼働させたい電力会社側も反原発の人びとも、ともに科学的な視点を欠いたものとして映っているのかもしれません。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。