晩年をいかに過ごすかで人の評価は一変する。「晩節を汚したくない」と自戒しておきながらも、いつのまにか「老害」と呼ばれている人も少なくない。長寿命化の現代においては引き際がますます難しくなっている。経営者や政治家などの偉人たちはどのようにして、何を考え、身を引いたのか。人生100年時代のヒントを探る。第3回はロシアの政治家のヨシフ・スターリンを取り上げる。
虐殺した人数は数えきれず
偉大な功績を残した人物が、穏やかな老後を過ごせるとは限らない。引き際を間違えたばかりに、寂しい余生を過ごすことは珍しくない。一方、「引かない」選択肢もひとつである。死ぬまで権力を離さなければ、周囲の対応の落差も感じずに絶頂のまま死ねる。ただ、果たしてそれは幸せなのか。権力を握り過ぎたがあまりに命を落とす可能性もある。ヨシフ・スターリンもそのひとりだろう。
スターリンはヒトラー、毛沢東と並び、人民を虐殺しまくった指導者として歴史に名を残す。
1937、38年の2年間だけでも、約158万人が逮捕され、68万人が銃殺された。30年代全体では1000万人とも2000万、3000万ともいわれている。
ロシアが世界に誇る文学者ドストエフスキーが著した『罪と罰』は、ペテルブルク大学の元学生ラスコーリニコフが、近所に住む金貸しの老婆を殺害する物語だ。犯行の動機は「天才は凡人の権利を踏みにじっていい」という哲学だ。この選民思想を体現したのがスターリンだ。
彼は74歳まで生き、その行為は当時、ソビエト社会主義実現のため必要だったと正当化された。スターリンという天才にとっては凡人の命を1000万単位で奪っても痛みを感じる必要はなかったのだ。