パリ五輪報道でアスリートのプライバシーは守られるか(写真:AP/アフロ)
  • パリ五輪の開催を前に、日本オリンピック協会(JOC)がアスリートのプライバシー保護を訴える声明を出した。
  • 競技以外の「結婚」「進退」などをめぐる過剰なメディアのスクープ合戦が選手声明を脅かすとの強い危機感がある。
  • 大リーグで活躍する大谷翔平選手は一部メディアに自宅を暴露され、安全に生活できないなどとして売却を検討しているという。大谷報道の教訓は五輪で生かされるか。

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 パリ五輪の開幕(7月26日)を2週間後に控えた12日、日本オリンピック委員会(JOC)のアスリート委員会は、「アスリートのプライバシー保護に関する声明」を発表した。声明では、インターネット上で住居や交際相手などの情報が暴露されているなどとし、「オリンピックという4年に1度しかない大きな舞台でのプライバシー侵害は、人生をかけた長年の努力を無にし、選手生命を絶つことにも繋がりかねない」と強い危機感を示す。

 その上で、「アスリートが競技に集中し活躍するため、引退後も充実した人生を歩むためには、プライバシーの保護が極めて重要であること、アスリートにも尊重すべきプライバシーが存在することを改めて訴えます」と強調した。

 アスリート委員会が深刻さを指摘するのは、インターネット上での「真実か否かにかかわらず、プライバシーに関する情報は瞬く間に拡散され、半永久的に残ってしまいます」という点にある。

 なぜ、五輪開幕を直前に控えてこうした声明を出したのか。アスリートが訴えるプライバシーの保護は、一部の写真週刊誌やインターネット上での一般の人たちによる投稿だけを想定しているのだろうか。

 筆者はメディア全般に対しても向けられた「警告」だと考える。なぜならば、かつて新聞社で記者をした立場から言えば、五輪期間からその直後にかけては、スポーツ報道に重きを置くはずのマスメディアであっても、日本代表クラスのプライベートに踏み込む時期と合致するからだ。

「結婚」と「進退」。五輪が近づくと、多くのメディアの記者の注目選手への取材が、この2点を意識したものになる傾向が強い。

 デスクなどが、金メダルが有力なアスリートを取材している記者に「交際関係などは把握しているのか。結婚を他紙に抜かれたりしないだろうな」などと釘を刺すこともある。

 五輪報道は本来、アスリートがどのような努力を積み重ねて、夢舞台にたどり着いたか。そして、重圧がかかる緊迫した勝負の場面でどんなパフォーマンスを発揮したかを、プロセスも交えて記事にすることが柱となるはずである。

 ところが、こうした努力のプロセスに関する報道では、国内に多数存在するメディアの中で記事の内容に「差別化」を図りにくいのは確かである。