羨望は、大きなエネルギーにもつながる(写真:yamasan/イメージマート)
羨望は、大きなエネルギーにもつながる(写真:yamasan/イメージマート)

 それなりの人数が集う職場には、必ず一人は問題児がいる。怠慢な人、身勝手な人、プライドが高い人、狡猾な人、無理な要求をする人、裏で人間関係を破壊する人など、職場を腐らせる問題児たちにはいくつかの共通項が見られる。そして、彼らの多くは自分が問題行為をしていることに無自覚だ。誰が職場をダメにする腐ったミカンなのか。『職場を腐らせる人たち』(講談社)を上梓した精神科医の片田珠美氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

※前編「パワハラやシゴキを受けた人はなぜ同僚や後輩に同じことをしてしまうのか?」から読む

──職場を腐らせる人たちの例として、本人のいないところで陰口を言う人の例を紹介されています。やたらと陰口が多い人の心理はどうなっているのでしょうか?

片田珠美氏(以下、片田):陰口が多い人はどこにでもいますが、このような人は承認欲求が強いのに、それが満たされていないのです。認めてもらいたいのに、認めてもらえない。だから、承認欲求をこじらせている。

 ところが、その人のすぐ側に、実績を上げていて、人柄も良くて、皆から信頼されていて、上司からも認められていて、出世していくような人がいる。そうすると、妬ましくて我慢ならず、どうしても耐えられないからその人の陰口を言わずにはいられなくなってしまう。

「あの人はああだよね」「こうだよね」「○○らしいよ」と陰口が始まり、場合によっては完全なデマ話さえ捏造して吹聴するようになります。

──陰口は羨望の裏返しということですか?

片田:そうです。でも、羨望を抱いていることを認めると、相手より自分が劣っていることを認めることになってしまいます。あるいは、自分の承認欲求が満たされていないことに歯ぎしりしている事実が露呈してしまう。それは認めたくない。

 陰口を言う人は腐ったミカンの典型です。腐ったミカンが箱の中に1個でもあると、他のミカンもどんどん腐っていきますよね。陰口を言う人が職場の中に一人でもいると、周囲の人もそこから負のエネルギーを受け取り、どんどん陰口を言うようになっていきます。

──逆に陰口を言わない人は、自分に自信のある人ですか?

片田:自信があるかどうかは分かりませんが、ある程度、身の程をわきまえている人だと思います。

──不満や怒りを相手に分かるような形で出すのではなく、分かりにくい形でこそこそ表出するやり方を精神医学では「受動的攻撃(passive aggression)」と呼ぶそうです。職場における受動的攻撃には、どのような例がありますか?

片田:よくあるのは、言われたことをやらないという受動的攻撃です。「いついつまでにこれやっておいて」と言われても、期限内にきちんと対応しない。指摘されても「やります」と答えるだけでなかなか対応しない。あるいは、何か渡さなければならないものがあるのに、きちんと渡さない。

──「任務を怠る」という形の攻撃ですね。

片田:そうです。微妙にやるべきことをやらないのです。自分が攻撃をしていることがバレてしまうと困るので、分からないようにスレスレのところでやるんですね。

 しなければならない連絡をきちんとしない。約束の時間を1時間ズラして伝える。そういう攻撃もしばしば見られます。

──やっている人は無意識にやっているのでしょうか。

片田:無意識にやっている場合が多く、だからこそたちが悪いのです。自覚がないということが一番恐い。

 怒りは澱のように溜まっていくので、どうにかしなければなりません。だから、攻撃と分からない方法で報復する。すごく恐いですよ。