和歌のやり取りにみる宣孝と式部の「痴話げんか」

 今回の放送で、まひろが結婚したことを、宣孝の口から藤原道長に報告。少し胸が苦しくなるシーンだった。

 しかも宣孝は、動揺をなんとか隠す道長に「実は私なのでございます」と追い打ちをかける。想像もしなかったからだろう。道長が「何が私なのだ?」と聞くと、「為時の娘の夫でございます」と得意顔。SNSでも「性格悪いぞ!」との声が続出した。

 さらに、宣孝は道長に結婚を伝えたことを、まひろに報告。「そのようなこと、なにゆえ左大臣様に!」と責められると「あとから意地悪されても困るからな」とうそぶいている。

 相変わらずクセのあるキャラクターだが、実際の宣孝もなかなかの性格だったらしい。あるとき、式部は宣孝にこんな歌を贈っている。

「閉ぢたりし 上の薄氷 解けながら さは絶えねとや 山の下水」
(春が訪れて氷で閉ざされていた谷川の薄氷が解けるように、せっかく打ち解けたのに、これでは、山川の流れも絶えるように、あなたとの仲も切れればよいとお考えなのですか)

 何やら不穏な雰囲気だ。宣孝も負けずにこう返している。

「東風(こちかぜ)に解くるばかりを底見ゆる石間の水は絶えば絶えなむ 今は物も聞こえじ」
(春の東風で解けるほどの氷ならば、岩間の水も底が見えているというものだ。私たちの仲も、絶えてしまうならそれでいいさ)

 一体、何があったのか。詞書を見てみると、紫式部からもった手紙を、宣孝が他の人に見せてしまったのだという。教養のある妻を自慢したかったらしいが、当然、許されることではない。

 怒った式部が「あげた手紙を全部返してもらわないと、返事は書かない」と、使者を通じて伝えると、宣孝はなんと「返せばいいんだろ、返せば!」と逆ギレ。それに対して、式部が詠んだのが、先の「せっかく打ち解けたのに……」という歌だった。

 悪びれる様子もなく、しまいには「もうお前には何も言うまい」となぜか怒り出した宣孝に、式部もなんだかおかしくなってきたようだ。こんな歌を返している。

「言ひ絶えば さこそは絶えめ なにかその みはらの池を つつみしもせむ」
(もう手紙も出さないとおっしゃるなら、そのように絶交するのもいいでしょう。どうしてあなたのお腹立ちに遠慮なんかいたしましょう)

 こんな応酬の末、宣孝は夜中になって、ようやく「お前には勝てない」と白旗を上げて仲直りしている。

 ちなみに、この痴話げんかは長保元(999)年正月10日ごろで、新婚の頃だったと思われる。次回の放送で再現されるのかどうか楽しみである。