中国は「世界一安全な国」はある意味正しいが…

 中国が外国人にとって世界で最も安全な国の一つである、という主張はある意味正しい。だがそれは過去の話になりつつある。

 中国は世界有数の監視国家。AI監視カメラは全国津々浦々に配置され、犯罪者の検挙率は格段に上がった。また外国人記者や駐在員の行動、言動は特に緻密に監視されているので、その分、犯罪に巻き込まれにくいともいえる。

江蘇省蘇州市で日本人の母子が切り付けられた。現場と見られるバス停(写真:共同通信社)

 私が北京に駐在していた2000年代の初めは、まだ監視カメラはそんなになかったが、当局の尾行などが普通にあり、おかげで夜道も安心だった。ときに「あなたの安全のために」という理由で、あそこに行くな、ここに近づくなと注意を受けたことも度々あった。

 軍事管制区内の友人宅に行こうとすると、突然携帯電話が鳴って、当局の監視員らしい人が、「君は自分がどこにいるのかわかっているのか」と注意された。だが、そのおかげで、スパイ容疑をかけられて身柄を拘束されることもなかった。

「あなたの安全のため」というのは、半分くらい本音だろう。2008年夏季五輪を控えた当時の中国は国際社会の新たな大国として台頭しはじめていたころであり、国際社会に対する大国の責任を果たし、メンツを守ることに非常なこだわりを持っていた。当時は確かに、外国人の安全は中国人の安全より重視されていたと実感できた。

 だが、中国における「外国人の安全」は国際社会に対するメンツから、やがて外交駆け引きのカードになっていった。