(英エコノミスト誌 2024年6月22日号)

訪朝し新条約に調印したプーチン大統領(6月19日撮影、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ロシアの独裁者が平壌を訪問し、新しい戦略条約に署名した。

 金正恩(キム・ジョンウン)氏に新しい親友ができた。

 以前は米国のドナルド・トランプ氏と甘い言葉で書かれた手紙をやりとりしていたものの、2019年にベトナム・ハノイでの首脳会談で振られてしまっていた。

 代わって登場したのがウラジーミル・プーチン氏。ウクライナでの戦争に使う武器を求めて金氏のご機嫌を取ってきたロシアの大統領だ。

 金氏は2019年以降、プーチン氏と会談するためにロシア極東地方を2度訪れている。一方、プーチン氏は6月19日、2000年の大統領就任以降では初めて北朝鮮に足を踏み入れた。

 平壌に到着したのは同日未明の午前3時近くだったが、金氏は滑走路に敷かれたレッドカーペットの上でプーチン氏を待っていた。

 その後、両首脳は戦略パートナーシップ条約に署名し、一方が攻撃を受けた際には他方が支援に駆けつける約束を交わした。

地政学を追い風に育まれた友情

 この関係が花開いたのは地政学上の変化のおかげだ。

 ハノイでの首脳会談が失敗に終わった後、金氏は米国との話し合いをやめ、ロシアに新たな交渉の開始を申し入れ始めた。

 ロシア側の反応は芳しくなかったが、プーチン氏によるウクライナ侵攻が難航し、弾薬が必要になったことで風向きが変わった。

 金政権が豊富に所有している数少ない品目の一つが弾薬だったのだ。

 だが、両国の関係見直しの影響は兵器の売買にはとどまらない。米国のシンクタンク、スティムソン・センターのジェニー・タウン氏は「単なる武器取引だと考えるのは誤りだ」と警鐘を鳴らしている。

 今回結ばれた新条約は、ロシアと北朝鮮の関係が深化し、冷戦以降のどの時点よりも親密になっていることを示している。

 プーチン氏は、どちらかの国が「攻撃」された場合には「相互支援」を行う約束に言及し、金氏は「同盟関係」に等しいと述べた。

 北朝鮮の国営通信社が公表した条文によれば、この約束は旧ソビエト連欧と北朝鮮が1961年に締結した条約に記されていた、即座に軍事援助を行う保証によく似ている。