親の事業を「継ぐ」「継がない」その分かれ目

 こうした問題もあって、比率が低下しているとはいっても、経営者の子どもは依然として有力な後継者候補である。子どもが継がなければ自分の代で廃業することになると考える経営者も少なからずいる。

 中小企業において事業承継を進めるためには、親族以外への承継の促進はもちろん大切だが、並行して経営者の子どもに承継を促す取り組みを実施していくことも必要だろう。

 では、子どもに事業を承継してもらうには、どうすればよいのだろうか。当研究所が2021年に経営者の子どもを対象に実施した「子どもの事業承継意欲に関する調査」の結果をもとに考えてみよう。

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子どもの事業承継意欲を高めるには何が必要か ─「子どもの事業承継意欲に関する調査」結果から─
2021年に実施した「子どもの事業承継意欲に関する調査」の結果をもとに、子どもの事業承継意欲を高めるために必要な取り組みを詳しく分析したレポート。子どもの事業承継意欲を高めるには何が必要か ─「子どもの事業承継意欲に関する調査」結果から─ 2021年に実施した「子どもの事業承継意欲に関する調査」の結果をもとに、子どもの事業承継意欲を高めるために必要な取り組みを詳しく分析したレポート。

 まず、親の事業を承継する意欲がある人(以下、承継意欲あり)に、親の事業を継ぐ理由を尋ねた結果をみると、図1のとおりである。

「事業経営に興味があったから」(34.9%)をはじめ、「事業内容にやりがいを感じたから」(22.2%)や「収入が増えると思ったから」(16.1%)など事業の魅力を挙げる人が多い。「自分は経営者に向いていると思ったから」(20.5%)や「仕事の経験・知識や資格を生かしたかったから」(12.1%)といった能力発揮に関する理由も多い。

親の事業を承継したい・承継してもよい理由親の事業を承継したい・承継してもよい理由
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 一方で、親の事業を承継するつもりがない人(以下、承継意欲なし)に、継がない理由を尋ねた結果は、「事業経営に興味がないから」が35.4%と最も高い。次いで「必要な技術・ノウハウを身につけていないから」が26.5%、「自分は経営者に向いていないと思うから」が26.2%となっており、事業への無関心や能力不足を指摘する人が多い(図2)。

親の事業を承継するつもりがない理由親の事業を承継するつもりがない理由
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 継ぐ理由と継がない理由を並べてみると、事業への興味や本人の能力に関する項目が共通して高い割合になっている。魅力的な事業であるかどうか、事業を行う能力があるかどうかが、子どもの承継意欲の有無に大きな影響を及ぼしていると考えられる。

事業の内容は伝わっているか

 実際、承継意欲ありの方が承継意欲なしよりも、親の事業に魅力があり、事業を行う能力があると考えている割合が高い。

 親の事業の業況をみると、承継意欲ありでは「良い」が23.2%、「やや良い」が40.2%と、計63.4%が業況は良好であると回答している。対して承継意欲なしではそれぞれ7.1%、20.1%の計27.2%である。その差は36.2ポイントにもなる。

 業況が良ければ、それだけ事業の継続が容易で、高い収入も期待できる。魅力的な事業といえるだろう。

 事業を行う能力に関して、親の事業に対する適性があると思うかを尋ねた結果をみると、承継意欲ありでは「大いにある」が23.4%、「ある程度ある」が41.6%となっており、合わせて65.0%が適性を感じている。承継意欲なしのそれぞれ2.7%、8.2%の計10.9%と比べてかなり高い値である。承継意欲なしでは「まったくない」が50.7%を占めている。

 ただ、承継意欲なしでは承継意欲ありと比べて「わからない」と回答した人が多い。親の事業の業況については、承継意欲なしでは36.1%、承継意欲ありでは10.9%が、親の事業の適性については、それぞれ22.1%、11.9%が「わからない」と回答している。承継意欲なしには事業の内容について詳しく知らない人が相対的に多いことを示す結果といえる。

 事業の内容を知らなければ、仮に事業に魅力があったとしても、魅力はないのと同じである。適性があるかどうかも判断できない。承継を考えてもらうためにも、まずは事業の内容を子どもにしっかりと伝えることが重要だろう。