豊田章男・トヨタ自動車会長自動車メーカー5社で型式認証不正が発覚し、会見で謝罪する豊田章男・トヨタ自動車会長(写真:つのだよしお/アフロ)

井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

 ダイハツ工業による「型式指定」の手続きを巡る認証不正発覚から1年。火の手はトヨタ自動車、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機へと広がった。過去の燃費・排出ガス測定や完成検査まで含めると「スネに疵(きず)」のないメーカーはなくなったと言っていい。クルマづくりの不正はなぜなくならないのか。

2014年以降に不正が急増したワケ

「ブルータスお前もか」──6月3日の会見でトヨタ自動車の豊田章男会長は自社の型式指定にまつわる不祥事を指してこう述べた。翌6月4日には同社に初めて国土交通省の立ち入り検査が行われた。

認証不正問題で、トヨタ本社に立ち入り検査に入る国交省の職員認証不正問題で、トヨタ本社に立ち入り検査に入る国交省の職員(6月4日、愛知県豊田市/写真:共同通信社)

 2022年に日野自動車でエンジンの排出ガス測定の不正が発覚したとき、トヨタから送り込まれた小木曽聡社長は「トヨタのシステムは不正が起こり得ない仕組みを持っている」と言い、翌2023年のダイハツの型式指定にまつわる不正発覚時もトヨタはあくまで子会社の問題と断じていた。人間がやる以上、システムがあるから万全ということはないという当たり前のことが露呈した格好である。

 何もトヨタが根本的に不正を行う体質だったというわけではない。開発部隊も認証部門も真面目一徹。設計技術や品質管理は世界に冠たるもので、実力や誠実さを疑う人は少数だろう。

 それは今回名前が挙がったホンダもしかり。ホンダの認証部門のパラノイア的とも言える仕事ぶりは業界でもつとに有名だ。燃費・排出ガス測定など、同じ幅のタイヤでもスポーツ用など性能が異なる場合、全て別個に計測してスペックシートにわずかな数値の違いを記載するほどだ。

型式指定の認証申請を巡る不正発覚を受け、記者会見するホンダの三部敏宏社長型式指定の認証申請を巡る不正発覚を受け、記者会見するホンダの三部敏宏社長(写真:共同通信社)

 もっと言えば型式指定騒動の端を開いたダイハツも、最初から不正をこっそりやらかすような会社ではなかった。

 第三者委員会が「確認された最古の不正は1989年の小型セダン『アプローズ』」と報告したため隠蔽体質という印象が植え付けられたが、当時はまだ製造物責任法すら影も形もなかった時代で「似たような話はどこにでもあった」(自動車メーカーOB)

 不正が急増したのはあくまで開発期間の短縮強行と業務量の急増が同時に起こった2014年以降であって、それまではカタブツすぎるくらいカタブツな会社というのがダイハツの業界評だった。

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