袴田巌さんの再審第15回公判後に記者会見する(右から)姉の秀子さん、主任弁護人の小川秀世氏ら=5月22日(写真:共同通信社)

一家4人を殺害したなどとして死刑判決が確定している袴田巌さん(89)のやり直し裁判(再審公判)が2024年5月に結審し、9月26日に判決が言い渡されることになりました。再審公判で弁護側は袴田さんの無罪を主張しましたが、検察側は再び死刑を求刑しました。再審は元の確定判決を覆すような新証拠が出たときにのみ認められるもので、再審の開始は「再審公判での無罪」と1本の線でつながっているとも言えます。それなのに、検察側はなぜ、再審公判で死刑を求刑したのでしょうか。専門記者グループのフロントラインプレスがやさしく解説します。

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弁護団「検察官は歴史に汚点を残した」と批判

 再審公判が結審した後の記者会見で、弁護側は記者会見に臨み、袴田さんに再び死刑を求刑した検察側を厳しく批判しました。なかでも角替清美弁護士は「検察官は汚点を残した」と指摘。そのうえで「これが歴史に汚点を残したというふうにならなければ、検察官は(無実の人を罪に陥れるという)同じことをまた繰り返します」と語気を強めました。

 袴田さんは長期の身体拘束によって、保釈後も拘禁症状が消えません。そのため、袴田さんに代わって再審公判に出廷した姉の秀子さん(91)も「巌はいまだに妄想の世界にいる。どうか、(無罪判決によって)巌を人間らしく過ごさせてくれるようお願いします」と訴えました。

 そもそも、再審には極めて高いハードルがあります。確定判決が出たあとに刑事裁判のやり直しを求める場合、弁護側は無罪を証明するための新証拠を裁判所に提出しなければなりません。

(出所:共同通信社)
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 それらの新証拠に「新規性」と「明白性」がない限り、再審は認められないのです。ようやく下級審で再審が決まっても、検察側は必ずといいほど高裁や最高裁に不服を申し立てます。そして開始決定が取り消されてしまうことも珍しくありません。

 このため、司法界では再審開始のハードルの高さを「針の穴にラクダを通すより難しい」などと表現していました。実際、袴田事件でも1981年に行われた最初の再審請求から2023年4月の開始決定まで30年以上の年月を要しました。