日本の物流を左右する「貨物問題」も先送りされる?

 2016年に北海道新幹線が開業すると、同区間の並行在来線は「道南いさりび鉄道」に移管された。

 しかし、札幌駅までの延伸が実現すれば、新函館北斗駅―札幌駅と並行する函館本線の区間は第三セクターへと移管せずに、JR北海道が引き続き小樽駅―札幌駅間のみを在来線として運行し、残りの区間を廃線にすることも検討。長大な函館本線の大部分は消えてしまうが、その代替交通としてバスを運行することで地域住民の足を確保する、としている。

 北海道新幹線の延伸は北海道にとって悲願でもあったが、それと引き換えに函館本線の大部分が廃止される代償は大きい。

 大半の利用者は特急列車に乗車していたから、それが新幹線に置き換えられるだけで、特に影響はないとする見方もある。しかし、それは旅客列車だけに限った見方に過ぎない。JR北海道管内では貨物列車が頻繁に運行され、貨物列車は青函トンネルを通って本州にも大量に物資を輸送している。

 函館本線の小樽駅―長万部駅間は海線と呼ばれる代替路線があるので廃止されても貨物列車の運行は継続できるが、長万部駅―函館北斗駅間に代替路線はない。同区間が廃止されると、貨物列車が運行できなくなり、それは本州にも大きな影響を与える。

 当初、国土交通省、北海道、JR北海道、JR貨物は長万部駅まで貨物列車を運行し、そこからトラックに積み替えて函館・本州方面へ物資を輸送するという青写真を描いていた。しかし、貨物列車で運ばれてきた大量の物資をトラック輸送でカバーすることは非現実的だ。そのため、長万部駅―新函館北斗駅間を貨物専用線として残すことも検討されていた。

 だが、貨物専用線として残した場合、同区間の線路や諸施設を誰が維持・管理し、費用は誰が負担するのか、といった問題が発生する。

 この問題を議論している前出の4者は、2025年度に結論を出すとしているが、物流の問題は北海道だけの話では完結しないため、簡単に決着するとは思えない。北海道新幹線の札幌駅延伸が延期されたことで、函館本線の問題も先送りされる公算は高いだろう。

 昨今の物流業界は働き方改革に関連した法規制によって対策を迫られ、そのシワ寄せからトラックドライバー不足が表面化している。いわゆる「2024年問題」だが、ドライバー不足の救世主として、輸送効率の良い鉄道貨物が再評価されつつある。

 北海道という広大な大地の物流網を下支えしてきた鉄道貨物が新幹線整備によって危機を迎えたことで、その重要性が改めて再認識されることとなった。

 今後、同じような議論が各地で浮上することは間違いないが、それらが表面化する前から、行政や業界団体は先手を打っていかなければならない。北海道新幹線は前出の4者だけではなく、最低でも経済産業省・厚生労働省・農林水産省・環境省を加えて議論を進める必要があるだろう。

 開業時から多くの問題を孕んでいた北海道新幹線だが、札幌駅延伸によって難題が山積していることを改めて浮き彫りにした。とりわけ、貨物列車が走れなくなる事態は、北海道という一地域の問題ではなく、日本全体の物流を左右する大問題、ひいては私たちの生活にも直結する一大事であることを認識する必要がある。

【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。