「経済大国」を目指すという価値観は変えるべきだと岸氏は語る(Nokuro/shutterstock)「経済大国」を目指すという価値観は変えるべきだと岸氏は語る(Nokuro/shutterstock)

 近年はバラエティ番組にも数多く出演し、お茶の間でますますよく知られる顔となった元経産官僚で経済評論家の岸博幸氏。彼は2023年1月に「多発性骨髄腫を罹患している」と医者から言われ、「10年から15年」という余命を告知された。一時は、ウサギの描かれたグレーの帽子を被り、抗がん剤治療の結果に髪の毛の抜けた状態で、テレビに出演していた。

 治療を続けながらも、多忙な日々を送っているように見える本人は、今何を思うのか。『余命10年 多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』(幻冬舎)を上梓した、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──「昨年1月に、がんを告知された」という衝撃の書き出しで本書は始まります。どのように病気の発見に至ったのか、教えてください。

岸博幸氏(以下、岸):およそ2年前に60歳になりましたが、その辺りから自分が疲れやすくなったと感じるようになりました。たしかに講演やテレビ出演ではかなり集中しますが、帰りの移動中にぐっすり寝込んでしまうことがかつてないほどに増えたのです。この頃、周囲の人から「顔色が悪い」と言われることも多くなりました。

「年だからしょうがない」と思いつつ、昨年1月に、気になって知人が勧めてくれた人間ドックに行ったら、2日コースの初日に「血液疾患の疑いがある」と言われ、勧められるがまま血液内科に行ったら「多発性骨髄腫」が明らかになりました。

──病気が明らかになる前は、ものすごく体を鍛えていたと書かれていました。

岸:若い頃からずっとロッククライミングをやっていて、アイガー(アルプスの三大北壁と呼ばれる困難なルート)などを含め、いろんな山を登ってきました。また、仕事で総合格闘技に関わるようになった縁で、プロの格闘家からキックボクシングや柔術を習っていました。

 本来はそういうことが大好きで、若い頃からずっと体を鍛え続けてきました。体力にも異常に自信があったので、まさか自分が大病をするとは想像すらしませんでした。

──「多発性骨髄腫」とは、どのようながんでしょうか?

岸:分かりやすく言うと「血液のがん」です。基本的には完治しない病気です。