AIの台頭でなくなるかもしれない仕事として挙げられるコピーライター。BMW、KDDI、富士フイルムなどを担当し、40年にわたりコピーライターとして活動してきた中村ブラウン氏が初めてChatGPTを使ってみた感想は「ふざけるなよ!」という憤りだった。
広告・宣伝、特にコピーライティングを考えるときに最も重要かつ時間と労力をかける「ターゲット分析」を、ChatGPTがものの数分で的確に行ったことへのショックもあった。だが、使いこなすにつれて「まだChatGPT ができていない点」にも気づかされたという。ChatGPTがたどり着けない「人の心を動かす」コピーワークを生み出す手法とは何か。(JBpress編集部)
※この記事は、中村ブラウン氏の『ChatGPT 売れる文章術』(三笠書房)を一部抜粋・編集したものです。
コピーライティングの金字塔
(中村ブラウン:広告クリエイター)
マーケティングの世界では、「人間の8つの欲求」を刺激すると効果的だと言われています。
8つの欲求とは、「人生を楽しみたい」「おいしいものを食べたい」「恐怖、痛み、危険から逃れたい」「性的快感を味わいたい」「快適に暮らしたい」「他人に勝りたい」「愛する人を守りたい」「社会的に認められたい」というもの。確かに、どれも「人間の根源的な欲求」を表していると思います。
今回の「8つの欲求」をカテゴリーに入れるべきか悩みました。なぜなら、この「8つの欲求」からキャッチコピーをひねり出すのは、私の経験上、ちょっと難しいからです。ただ、知っておいて損のない考え方です。
「このキャッチコピーは8つの欲求を満たしているから効果がありそうだ」という、いわば目安なり尺度になればと思い、紹介することにします
【人生を楽しみたい】
例:「一瞬も一生も美しく」
資生堂のスローガンとして有名ですね。背景にあるのはアンチエイジングではないでしょうか。言葉そのものがみずみずしくて美しい。まさに「人生を楽しみたい」という欲求を満たす好例のキャッチコピーだと思います。
ただ、冒頭で述べたように、「人生を楽しみたい」という出発点から、このキャッチコピーにたどり着くのはかなり難しいと考えます。
【おいしいものを食べたい】
例:「おいしい生活」
テレビのバラエティ番組で手堅いと言われる企画の一つに「グルメもの」があります。グルメものは一定数の視聴率を稼げるからです。逆に言えば、万人は、「おいしいものを食べたい」という欲求を持っていることになります。
「おいしい生活」は糸井重里さんが西武百貨店のために作った、いわばコピーライティングの金字塔ともいえるキャッチコピーです。
当時は「おいしい」という形容詞は食べ物だけに使われていたと思いますが、現在では日常会話の中でも、「その仕事、おいしいよね」というように「得をしている」「嬉しい気分になる」という意味にも変わっています。