地方のヤンキーを東京に呼び寄せる理由

 地方の若者をあえて東京に呼び寄せたのは、地元のコミュニティからいったん離すことが狙いだ。

 勝山自身がそうだったように、補導されたり、警察に捕まったりした後は、「もうやめよう」「ちゃんと学校に行こう」と反省する。ただ、地元のコンビニの前で、「おお勝山、大変だったな。今から気分転換に走りに行こうぜ」と言われるとなかなか断れない。そうこうしているうちに、元の生活パターンに戻っていってしまう。

 こういった若者を変えていくには、地元のコミュニティから別のところに移動させることが不可欠だと勝山は語る。

栃木県那須町の焼損現場。逮捕された25歳の男も、ハッシャダイソーシャルと出会っていれば人生が変わったかもしれない(写真:共同通信社)栃木県那須町の焼損現場。逮捕された25歳の男も、ハッシャダイソーシャルと出会っていれば人生が変わったかもしれない(写真:共同通信社)

 ヤンキーインターン始まると、勝山は営業活動をやめ、運営の側にまわった。インターン生に自分の過去を語ったり、実際の営業スキルを教えたりというロールモデルとしての役割だ。

 勝山が自分の過去を語るようになったのは、自分が話すほうがインターン生が真剣に耳を傾けてくれると感じたから。経営者や学者のような人の話は彼らにとってどこか遠い。その点、勝山は同じような経験をしているため、素直に耳を傾ける。

 このロールモデルとしての活動は、勝山にとっては天職とも言えるものだった。過去を語り、未来をともに考えることで若者に選択肢を提示する──というその活動は、社会的意義も高く、やりがいを感じたのだ。

 ただ、同時に勝山は物足りなさも感じるようになった。

 インターン生は自ら決断してヤンキーインターンに参加している。これは、言い換えれば、自分でネットを調べて申し込むことのできるリテラシーのある若者か、周囲にヤンキーインターンを勧めてくれるような人がいる若者ということだ。

 だが、ネットで何かを調べられるような環境にない若者や、自分に必要なサービスだということに気づかない若者はたくさんいる。そういう人たちに、直接「Choose Your Life」を届けなければ意味がない。そう思うようになったのだ。

 そんなことを久世とともに考えながらいたときに、同い年のある男に会った。のちにコンビを組む三浦宗一郎である。(続く)

ハッシャダイソーシャルの活動を描いたドキュメンタリー「ニッポン辺境ビジネス図鑑・六本木編」(テレ東BIZ)はこちら!

篠原 匡(しのはら・ただし)
 編集者、ジャーナリスト、ドキュメンタリー制作者、蛙企画代表取締役
 1975年生まれ。1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。著書に、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)、
グローバル資本主義vsアメリカ人』(日経BP)、『腹八分の資本主義』(新潮新書)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)、『神山プロジェクト』(日経BP)、『House of Desires ある遊郭の記憶』(蛙企画)、『TALKING TO THE DEAD イタコのいる風景』(蛙企画)など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。テレ東ビズの配信企画「ニッポン辺境ビジネス図鑑」でナビゲーターも務めている。