『誰も断らない』の舞台となった神奈川県座間市(写真:Ricardo Mansho)

 2021年11月にJBpressで連載された「こちら座間市・生活援護課」。地域の社会福祉協議会やNPO、不動産会社などと連携し、生活に困窮する人々を支援する座間市役所・生活援護課の取り組みを描いた連載だ。

 その内容は大幅に加筆され、2022年6月に『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)として上梓された。この10月には、生協総合研究所の生協総研賞・表彰事業を受賞している。

2023年度生協総研賞 第14回「表彰事業」受賞作が決定しました(生協総研)

 全国的にも注目を集めている座間市の困窮者支援。その立役者で、座間市の生活困窮者自立支援事業を立ち上げた座間市役所の林星一氏(座間市福祉部参事兼福祉事務所長兼地域福祉課長)に、自治体における困窮者支援の現状と、国が進めている制度改革の論点を聞いた。(聞き手:篠原匡、編集者・ジャーナリスト)

──福祉やまちづくりに関わる地域の人々とともに困窮者の自立支援に取り組む座間市の事例は、全国でも注目を集めています。この9月には、NHKのETV特集でも取り上げられていました。私が座間市の取り組みを取材したのは2022年春ごろまででしたが、その後の座間はいかがでしょうか。

林星一氏(以下、林):初めに、篠原さん、生協総研賞特別賞おめでとうございます。

──ありがとうございます。私はただ起きていることを書いただけで、座間市の方々の取り組みがあっての受賞だと思っています。

林:篠原さんに取材いただいた時は新型コロナの感染拡大と、それに伴う経済的な影響や社会の不安で相談が急増した時期でした。その時に比べれば、相談件数は落ち着いていますが、コロナ前との比較で言えば、相談件数は増えています。

 内容も、コロナ前と比べれば、より複雑で複合的なものになっています。生活の困窮だけでなく、孤立や病気、多重債務、家族関係などの問題が絡み合っているようなイメージです。その分、自立に向けた支援は難易度が増しています。

座間市の困窮者自立支援事業を立ち上げた座間市役所の林星一氏(写真:Ricardo Mansho)

──「チーム座間」という言葉が有名になりましたが、座間市では社会福祉協議会やNPOなどの関係者と連携し、困窮している人々の自立支援に当たってきました。コロナ禍を経て、座間市の自立支援に何か変化はあったのでしょうか。

林:生活困窮者自立支援制度の精神は、「人が人を支える」というところにあります。自立のために福祉など既存の制度を活用するのは当然として、地域福祉課の自立サポート係がまずは断らずに話を聞き、相談者に寄り添い、一緒に伴走するというところにこの制度の最大の特徴がある。

 そのため、2015年4月に生活困窮者自立支援制度が始まって以来、私たちは「誰も断らない」をモットーに、自立に向けた支援を続けてきました。

 ただ、コロナ禍になり、自立サポートは特例貸付や住居確保給付金の拡大、生活困窮者自立支援金などさまざまな給付が始まった結果、そうした手続きに追われ、相談者の急増に対応するために社会福祉協議会や居住支援を手がけるNPOなどチーム座間の適切なところに、割り振って課題を解決する側面が強くなっていました。

 もちろん、課題解決は課題解決で大切なことなのですが、制度の基本に立ち返り、相談者の相談を断らずに受け止め、市役所の担当がご相談者と一緒に考えるというプロセス、自立相談支援の基本の部分を今一度大切にしようと課のメンバーとは話しています。

──生活困窮者自立支援制度は、その自治体が置かれている環境に合わせて支援メニューを作り上げていくところに大きな特徴があります。実際に林さんは制度の任意事業をうまく使って就労準備支援や地域居住支援、家計改善支援、フードバンクなどの支援メニューを増やしてきました。