なお、習政権が台湾の現状を変更するためにとり得る選択肢には、武力侵攻以外にも、認知戦などグレーゾーン分野での揺さぶりや台湾周辺海域の経済封鎖などがある。これらのアクションは、武力侵攻よりも習政権にとってコストが小さく蓋然性が高い。だが、日本が受ける影響もまた小さい。

 何が起こるのかを当て推量することが本調査の目的ではなく、備えとして、起きるか起こらないは分からない(不確実性が高い)が、起きた時に最も深甚な影響を与える「テールリスク」を考えることを狙いとしている。そのため、シナリオの範囲を武力侵攻に絞っている。

中国がどこまで攻めるか、日米がどう対応するか

 おそらく中国は、米国が介入する可能性をできるだけ低くしながら既得権益を拡大し、台湾の抵抗意欲をそぎ落とす戦略(サラミスライス戦略)を採ると思われる。この際、中国が軍事力を用いない手段を選択した場合、日米とも静観せざるを得ない状況も考えられるが、中国が台湾に対し物理的な『攻撃』を選択した場合、日米が座視することは考えにくい。

 中国が軍事オプションを行使する場合、一気に台湾本島に侵攻すれば、米国の関与を招く可能性もまた一気に高まる。また、民間人の被害の程度も大きくなる。コストと効果の見合いで侵攻する範囲をどこまでに収めるかを決定することになるだろう。

 中国にとってコストが小さい範囲から並べると、(1)台湾離島、(2)台湾本島、(3)日本の尖閣および先島諸島、そして(4)米軍基地を含む沖縄本島――となる。それぞれの場合で、日米がどう対処するかについても場合分けしていくと、シナリオは大きく「(1)台湾単独対処シナリオ」「(2)米台対処・国際社会支援シナリオ」「(3)日台対処シナリオ」「(4)米中本格対決シナリオ」の4つに大別できることになる。


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 以下、それぞれのシナリオについて概観する。