既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。第4回で取り上げるのは、老化細胞を取り除いて、老化を制御できるワクチンである。
老化細胞除去ワクチン研究の第一人者といえば、順天堂大学大学院循環器内科学の南野徹教授が知られている。その南野教授のもとで研究に取り組む勝海悟郎助教らは、細胞老化で起きる特徴的な変化に着目し、病的な老化細胞を副作用なしに取り除くワクチンの開発や老化細胞除去作用を持つ薬の導出に取り組んでいる。その成果は2021年12月『Nature Aging』誌のオンライン版で公開され、今はヒトへの臨床応用をめざす研究に取り組んでいる。
(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)
「Scienc-ome」とは
新進気鋭の研究者たちが、オンラインで最新の研究成果を発表し合って交流するフォーラム。「反分野的」をキャッチフレーズに、既存の学問領域にとらわれない、ボーダーレスな研究とイノベーションの推進に力を入れている。フォーラムは基本的に毎週水曜日21時~22時(日本時間)に開催され、アメリカ、ヨーロッパ、中国など世界中から参加ができる。企業や投資家、さらに高校生も参加している。>>フォーラムへ
自然の摂理としての細胞老化
ヒトの細胞は、神経細胞や心筋細胞などを除いて常に分裂・増殖を繰り返している。ただし無限に分裂し続けられるわけではない。
分裂回数には「ヘイフリックの限界」と呼ばれる法則があり、一定の回数を超えると分裂できなくなる。ヒトの場合の限界値はおよそ50回とされ、細胞分裂できなくなった状態が、細胞にとっての老化である。
「培養皿の上でマウスの皮膚の細胞などを継続的に観察すると、細胞は死滅しないけれども、いずれ分裂しなくなります。これが細胞の老化であり、限界まで分裂を繰り返した細胞を老化細胞と呼びます。老化細胞は加齢に伴って体内に蓄積し、さまざまな加齢性疾患をもたらすと考えられています」と、順天堂大学大学院循環器内科学・助教の勝海悟郎氏は老化細胞の概要を説明する。
なぜ、細胞は一定回数で分裂をやめてしまうのか。ヘイフリックの限界を決める要因は「DNAダメージ」と「テロメア」にある。
細胞にはDNAダメージが一定以上に蓄積すると細胞を老化させる機能が備わっている。また、テロメアとは染色体の末端にある構造体で、染色体の末端を保護したり細胞分裂時のDNA損失を防いだりしている。
ただしテロメアは細胞分裂のたびに少しずつ短くなっていき、一定以上短くなると細胞分裂できなくなってしまう。テロメア短縮もまたDNAダメージの一種として細胞に認識され、細胞老化が生じ分裂を停止する。
「細胞老化に伴い細胞分裂を止めるメカニズムがいくつか明らかになっています。たとえばp16遺伝子やp53遺伝子は細胞周期を停止させる、すなわち細胞老化を進めます。あるいはがんを発生させる遺伝子が同じく細胞老化を引き起こす現象も知られています。放射線や紫外線などによるDNAダメージも、同様に細胞老化につながります」
つまり細胞老化は、ある意味では避けがたい自然の摂理といえる。けれども老化した細胞が増えていくと、当然ながら全身の老化につながり、さまざまな問題を引き起こす。