キノコ雲を背景にバービーが笑う「バーベンハイマー」

『オッペンハイマー』の公開が見送られていた理由はこれだけではない。全米で同日公開された映画『バービー』の画像を組み合わせた、「バーベンハイマー」というネットミームが流行してしまったことも公開見送りの理由の1つだった。

 ネットミームとは、ネット上の掲示板やSNSを通して、印象の強い画像や動画などがマネされながら広がっていくことを指す。

 問題の「バーベンハイマー」では、原爆を象徴するキノコ雲や爆風を背景にバービーが笑っている画像が拡散されてしまった。これは被爆国である日本人からすると気持ちのいいものではない。

 しかもこのミームに、映画『バービー』の公式アカウントが「忘れられない夏になりそう」とハートの絵文字を付けて返信。「バーベンハイマー」を後押しするような反応を示し、非難が殺到する事態となったのだ。

 これに対して配給元の米ワーナー・ブラザースは謝罪声明を出し、関連する投稿を削除。だが時すでに遅く、これがきっかけで日本における映画のイメージは大暴落し、『オッペンハイマー』の日本公開がますます遠ざかってしまったのだ。

キノコ雲が高校でシンボルマークに、日本人には理解しがたい価値観

 またこの騒動の背景には、米国人の間で原爆が「大変な被害を生んだ恐ろしいもの」ではなく「戦争終結を早めた正しい判断だった」との認識が広く共有されてきたことがある。

 その証拠に、米国では1950年代に「ミス原爆」を決める街おこしイベントが開催されていたり、現代でもシンボルマークにキノコ雲が使われている高校が存在したりする。これは日本人には理解できないセンスである。

 しかし米国での原爆に対するイメージは、日本人が持つものよりもポジティブなものである。米国人と日本人との間にある大きな溝を取り除かない限り、今後も似たような問題が続く可能性がある。米国人の間で原爆開発がどのように語られているかを知るために、『オッペンハイマー』を見てみるのも一つの考え方かもしれない。