中国政府も事態を放置しているわけではない。中国のSNSを検索すると、中国各地の公安局がラオス国内に潜伏する犯罪容疑者に対する懸賞付きの指名手配を行っている。

 中国公安省は2月28日、ラオス政府と共同で1月にラオス国内7カ所の電信詐欺拠点を急襲するなどして、容疑者268人を検挙し、全員の身柄が中国側に引き渡されたと発表したが、「氷山の一角」との疑いを拭い去ることはできない。

 日本の外務省は「ボケオ県の経済特別区」を名指しし、「高額な報酬等の好条件を提示してラオスに渡航させた後、実際には自由を拘束し違法活動に従事させるという、外国人を被害者とする求人詐欺が多発している」として注意を喚起している。

カジノ以外に観光資源は乏しい

 こうした中、韓国政府は2月1日、韓国語通訳などの虚偽の求人で現地に渡航後、フィッシング詐欺、仮想通貨投資詐欺などに加担させられ、拒否すると監禁、暴行を受けたとの報告が相次いだことから、ゴールデントライアングル経済特区を「旅行禁止地域」に指定した。

 特区を巡る最新の動きとしては、2月5日にボケオ国際空港が正式に開港したことが挙げられる。特区から東に約5キロメートルに位置し、中国企業によるBOT(建設・運営・譲渡)方式で建設された。2500メートル滑走路を備える。現在は首都ビエンチャンへの路線しかないが、年内には中国やタイへの路線開設も計画されている。

 特区当局は観光業振興をうたってはいるが、現状はカジノ以外に観光資源は乏しく、頼みの中国人の集客には至っていない。中国から陸路だと、ラオス北部のボーテン国境から約280キロメートルの道のりを6時間かけて来る必要がある。

 そもそも中国人にとって、ゴールデントライアングルは2011年にメコン川を航行していた中国船舶が武装勢力に襲撃され、船員13人が殺害された惨事に加え、近年の電信詐欺報道によって、極度に治安が悪い地域と認識されている。

 特区当局と事業権者の金木棉集団は、航空路の開設で中国各地とのアクセスが改善されれば、中国人客が増えると期待しているが、空港が観光需要の起爆剤になるかどうかは未知数だ。

 今回特区を実際に訪れてみて感じたことだが、趙偉氏が特区にこれだけ巨額の投資を行いながら、未だに目玉のカジノホテルでさえ人影は疎らで、お世辞にも観光業が軌道に乗っているとは言い難い。それでも事業失敗に至らない背景には、何か裏の収入源でもあるのではないかと訝らずにはいられない。

宮城英二
(みやぎえいじ)1970年宮城県生まれ。新聞社、通信社、アジア各地の邦字メディアを経て、2007年からフリー。アジア各地に在住経験。アジア各国のニュース邦訳編集なども手掛ける。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
モスクワ銃乱射、「イスラム国」犯行声明を専門家はどう見るか
「離党勧告」「非公認」で解散か 岸田vs.安倍派・二階派の“最終戦争”が始まった
展望トランプ2.0―乗り越えるべき四つのハードル―