当の趙偉氏はしばしばメディアの取材にも応じており、犯罪行為への関与を否定している。特区管理委員会の主席を務める趙偉氏は今月、中国の動画投稿サイトに掲載されたインタビューを通じ、特区に注がれる疑念に反論した。
「ゴールデントライアングルというと、(臓器売買で)腎臓を取られるだとか何とか言われているが、この地は平和でそういうことはない」「現在も一部薬物が出回っているが、観光業を薬物経済に取って代わる存在に育て上げたい」
今回の特区訪問は危険を冒さず、終始一般観光客として振る舞ったため、そうした犯罪行為の手がかりとなるような物証を目にすることはなかった。しかし、隣接するタイや中国などで特区を介したとみられる麻薬類の密輸が相次いで摘発されていることは事実だ。
電信詐欺の闇、掛け子の証言
最近新たに問題視されているのが、中国人を中心とする犯罪組織が東南アジア各地を拠点として展開する電話やインターネットを使った電信詐欺だ。
電信詐欺そのものも問題だが、旅行中に拉致されたり、言葉巧みに誘い出されたりした人たちが監禁状態で「掛け子」として強制的に働かされている実態が脱出者によって明らかになることも少なくない。監禁被害者は中国人だけでなく、台湾や東南アジア各地にも点在し、社会問題化して久しい。
かつてはカンボジアのシアヌークビルなどが詐欺集団の一大拠点とされたが、取り締まりが強化されたため、ラオスのゴールデントライアングル経済特区や、クーデター後情勢が流動化しているミャンマーの国境地帯などに活動がシフトしているとされる。
中国の公式メディアで報じられた一例を紹介しよう。昨年7月に特区から救出された四川省の男性(36)は、タイ・チェンライに開業した観光客相手の中国料理店で働けば、月収3万元(約62万円)になるという誘いを受けた。しかし、現地に向かうと、特区内に連れ去られ、旅券も携帯電話も没収された。そして、狭い部屋に6~8人で押し込められ、電信詐欺に従事させられたという。
男性は取材に対し、「仕事は翻訳アプリとSNSを使い、チャットで知り合った相手に機を見計らって架空の電子商取引を持ちかけることだった」と話した。ターゲットは主に中東や東南アジアに住む人々だったという。
男性は「毎日12時間、無給で働かされた。『業績』が上がらないと体罰を受けた。半年『業績』を上げられなければ、他の詐欺拠点に売り飛ばされる」と証言した。
事実、筆者が特区内を歩き回ると、市街地の北側に屏風のような集合住宅が何棟も立ち並んでおり、部屋ごとに大量の洗濯物が干されていた。そこは特区で働くミャンマー人やラオス人の宿舎であるかもしれないし、もしかするとこの建物のどこかで電信詐欺が行われているのかもしれない。
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