特区の中心にそびえるのは、昨年開業したばかりの真新しい高級ホテル「木棉之星酒店(カポックスター・ホテル)」だ。敷地面積は5万平方メートル、客室数は1200室。内部にカジノや娯楽施設を備え、マカオの設計事務所が手がけたというド派手な外観は木棉(キワタ)の花をモチーフにしており、夜になるとライトアップされ、マカオのカジノホテルそのものだ。

 カジノは1階にあって、少し覗いてみたが閑散としていた。カードゲーム、ルーレット、スロットマシーンなどが楽しめる。ディーラーなど末端の従業員はミャンマー人やラオス人が多いようだ。ホテルの宿泊料金は1泊1200人民元(約2万5000円)からという話だった。

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 実は特区内での主な流通通貨は人民元で、ラオスの法定通貨であるキープはあまり使われない。全ての価格表示が人民元建てだ。物価は通常のラオス領内や対岸のタイに比べ格段に高い。

 街角は中国の田舎町をそのまま移植してきたかのようだ。徒歩で回ることができる中心部には、中国人が経営する飲食店、雑貨店、ホテル、マッサージ店などが軒を連ねている。看板は全て中国語簡体字だ。

 ただ、特区が思惑通りに繁栄しているかといえば、決してそうではない。特区の常住人口は5万人で、中国人が半分を占めるとされるが、実際はもっと少ないように感じた。訪れたのが平日の昼間ということも関係しているかもしれないが、行き交う人はほとんどなく、ゴーストタウンに近かった。明らかに中国人客をターゲットにしているのだが、観光客は日帰りで対岸から訪れるタイ人が中心だった。現地で会ったタイ人観光客は「物価も高いし、見どころも少ないから日帰りする」と話していた。

よく整備された特区内の道路。通行車両は少ない(筆者撮影)よく整備された特区内の道路。通行車両は少ない(筆者撮影)

特区の帝王は犯罪行為への関与を否定

 特区を開発したのは、中国・黒龍江省出身とされる実業家の趙偉(ちょう・い)氏(推定71歳)で、黒い噂が絶えないいわくつきの人物だ。

 米財務省は2018年1月、趙偉氏率いる国際犯罪シンジケートがカジノ経営を隠れ蓑にして、麻薬取引、人身売買、資金洗浄(マネーロンダリング)、野生動物取引などの犯罪行為に及んでいるとして、制裁を発動した。

 財務省は当時、趙偉氏が経営するカジノがヘロイン、覚醒剤の一種であるメタンフェタミン、その他麻薬類の保管、流通を支援しており、隣接するミャンマーで麻薬取引に関与しているとされる「ワ州連合軍」との関連性を指摘している。

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