紫式部が語った物語の効能

 紫式部は作中で光源氏に「日本紀などはほんの片端が書かれているにすぎない。物語にこそ真理というべきことがくわしく書かれているのだ」と物語論を語らせている。その内容と、道長に与えた影響について筆者はこう語っている。

日本紀とは、『日本書紀』をはじめとした漢文で書かれた歴史書全体をさす。そこには天皇代ごとに出来事が列挙されている。歴史年表のように、出来事が時系列に並んでいるだけで、基本的にはことの因果は描かれない。物語だからこそ、どうしてそうなったのかという顚末が描き出せるのである。このことは道長にも共有された認識だったろう。道長は、我が栄華を記録する歴史書『栄花物語』を、仮名書きで物語風に書かせた。

 同年代の人物や物語の登場人物から光源氏のモデルの推定をしたり、政治に多くの影響を与えた後宮サロンの盛り上がりについて述べたりと、本書には興味深い内容が多い。

 特にサロンの盛り上がりに関しては、当時の人物のやりとりが目に浮かぶようで面白い。今年の大河ドラマを楽しむために、良い手引きとなるだろう。

紫式部と男たち』(木村朗子著、文春新書)