(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年2月24・25日付)

雲に覆われ上部が見えなくなった中国の高度成長を象徴する上海の摩天楼

 暗い風刺は、中国で発展を遂げているオンラインジャンルだ。

 最近ソーシャルメディアに投稿された、中国共産党の機関紙「人民日報」の1960年の旧正月の記事を例にとろう。

 記事は農産物の収穫が「28.2%」増加したと伝えていた。

 教育を受けた中国人が今では知っている通り、中国が実は最大で4000万人を死なせたかもしれない絶望的な飢饉に陥っていた時に、だ。

 背筋が凍るような巨大な嘘の不条理を別にすると、この投稿に大きなインパクトがあったのは、2024年には1960年と同様、底抜けに楽観的なプロパガンダが描く国の経済生産がまたしても平凡な現実を凌駕しているためだ。

 政府の検閲体制は明らかに風刺を認識し、2月に記事を削除した。

共産党のプロパガンダと現実の大きなズレ

 米国に本拠を構える独立系ウエブサイト「チャイナ・デジタル・タイムズ」は、「多くの中国人が今、国営メディアが売り込む説得力のない楽観論と雇用や住宅、株式市場経由で市民を苦しめているリアルな経済的苦痛とのズレについて考えているなかで、こうした検閲が起きている」と評した。

 こうした痛みから、一部の人は中国の習近平国家主席を「逆方向に運転する皇帝」と呼ぶようになった。

 多くの一般市民にとって、生活は上向くどころか悪化しているように感じられるためだ。

 では、中国政府が今年の旧正月を機に内需を決定的に押し上げようとする可能性はどれくらいあるだろうか。

 そして、もしやったとすれば、景気浮揚策は奏功するだろうか。

 世界は今、昨年の外国直接投資(FDI)が1990年代以降で最低の水準に落ち込んだ世界第2位の経済大国の苦戦を見守っている。

 著名経済学者のエスワー・プラサド氏は国際通貨基金(IMF)に寄せた論考で、過去15年間で中国は世界の名目国内総生産(GDP)成長の35%を生み出し、米国の貢献度は27%だったと書いた。

 もし中国が本当に躓くと、その影響は欧州の一部地域の経済不振を悪化させ、米国にとって逆風を生み、脆弱な発展途上国を打ちのめす恐れがある。