(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年2月8日付)

バイデン大統領はいま、共和党議員に宥和的になるべき時ではない(2月9日ホワイトハウス執務室で、写真:AP/アフロ)

 ハリー・S・トルーマンが1948年の米大統領選挙に際し、連邦議会に「do nothing(何もしない)」議会というレッテルを貼ったことはよく知られている。

 公正を期すために言えば、当時の共和党が民主党の政策を妨害していたのは、その政策に同意できなかったからだった。

 翻って今日の共和党が妨害しているのは自分たちが喫緊に要求していた政策であり、これは同党の優先順位を反映している。

トランプが扇動する混乱作戦

 共和党が出した法案を成立させると、政府がきちんと機能し、そして米国の存在にかかわるとされる国境危機を解決できることが明らかになり、ひいては大統領選に臨むドナルド・トランプの主張に悪影響が及ぶ。

 だから共和党は「イエス」という返事を受け入れない。米国は意図的に「do-harm(害を及ぼす)」議会によって苦しめられているのだ。

 これは、選挙を有利に戦うために今後の見通しを不透明にする意識的な作戦だ。

 そのせいで国境の「非常事態」がさらに10か月続こうが、ウクライナ軍が戦場で大幅な後退を強いられようがお構いなしだ。

 扇動の主は、国境対策の法案は共和党にとって「自殺願望」だと述べているトランプだ。

 そして、そのトランプの手先となって連邦議会で活動しているのが下院議長のマイク・ジョンソンだ。

 議長はロシアのウラジーミル・プーチンが2022年にウクライナに侵攻した後、「ウクライナの主権の及ぶ領土にロシアが侵攻したことは、第2次世界大戦以降で最悪の世界秩序不安定化につながる恐れがあり、西側全体の安全保障上の脅威になる」と述べていた。