(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年1月22日付)

ブレグジットは誰を利したのか?

 ポピュリズム(大衆迎合主義)は民主政治の強力な一形態だ。

 残念ながら、これは破壊的な形態でもあり、制度機構を弱め、議論を損ね、政策を悪化させる。自由民主主義そのものを脅かすこともある。

 ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)の長い物語は、その危険についての客観的な教訓だ。

 長年にわたって世界で最も安定した民主主主義国の一つと考えられてきた国を壊したからだ。

失敗する運命だったEU離脱

 フィナンシャル・タイムズ(FT)の同僚のピーター・フォスターによる近著『What Went Wrong with Brexit』は、この物語を見事に描き出している。

 狂信的な連中と日和見主義者の古典的なポピュリスト連合が、いかにして短絡的な分析に白熱したレトリックや真っ赤な嘘を織り交ぜ、英国にとって最も重要な経済関係を弱め、国内の安定を脅かしたかを浮き彫りにする。

 幸い、この経験から学び、事態を正し始めるチャンスは存在している。

 ブレグジットは実際、うまくいかないことが確実だった。間違った前提に基づいていたからだ。

 少なくとも1つの相手国がからむため、貿易においては、国は完全な主権を持たない。それゆえ単一市場のルールが定められた。

 さもなくば、複数の異なる規制体系が存在し、ひいてはよりコストが高い(しかも規模が小さい)貿易になるからだ。

 また、何らかの機関が各国によって同意されたルールが守られているかどうかを判断しなければならなかった。それが欧州司法裁判所の絶対不可欠な役割だった。

 つまり、単一市場の創設は「規制の簡素化」行為だったわけだ。