(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年1月25日付)
本紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は1933年6月、「イタリアのルネッサンス:秩序と進歩というファシズムの贈り物」と題した付録でベニート・ムッソリーニをほめちぎった。
鉄道が時刻表の通りに運行され、投資が活発に行われ、資本家と労働者の摩擦も過去のものになった。
「傑出した首相、ムッソリーニ閣下の精力的な建築活動の下、この国は作り直されたと言うよりは作り変えられた」
FTの特派員はそう記していた。
企業は独裁を退ける防波堤?
企業は独裁を退ける防波堤だという考え方は1930年代に葬り去られたはずだったが、それを思い出させる出来事が今日の米国で起きている。
ドナルド・トランプが2021年1月6日にクーデターを試みた後、米国企業の経営者たちは連邦議会議事堂の襲撃をこぞって非難した。
大手金融機関JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、平和的な権力の移譲を求める声明を出し、「こんなのは我々の国民ではないし、我々の国でもない」と言い切った。
そのダイモン氏が1月半ば、スイスのダボスで発言した時には調子が変わっていた。トランプ氏は在任中に善いこともたくさん行ったと同氏は述べた。
ジョー・バイデン氏とトランプ氏のどちらが大統領になってもいいように企業は備えている。ダイモン氏は「どちらの政権でも私の会社は生き残り、繁栄する」と語った。
全米商工会議所も同様な変化を遂げている。
2021年1月にバイスプレジデントのニール・ブラッドリー氏は「自身の行動によって全米商工会議所の支持を失うことになるメンバーが数人いる。以上、終わり」と宣言した。
大統領選挙でのバイデン氏勝利の認定に反対票を投じた連邦議会議員への献金を禁止する同会議所のルールは、その数カ月後に静かに撤回された。
同会議所のスザンヌ・クラークCEOは1年前の年次イベント「ステート・オブ・アメリカン・ビジネス」のスピーチで米国の民主主義に言及しなかった。
この団体の最優先課題は、米連邦取引委員会(FTC)や米証券取引委員会(SEC)などの政府機関による「前例がない規制の行き過ぎ」と戦うことだ。