正規雇用より、非正規雇用のほうが時給が高い
語学学校には、コロンビアとブラジルからたくさん学生が来ていると聞いたが、自国の経済水準を考えるとかなりの費用になる。そこで、銀行が教育ローンを提供しているのだという。そのお金でオーストラリアにやって来て、学校に通いながら働き、ローンを返済するのだ。
建設現場では、時給30豪ドルから60豪ドルも稼げるという。がんばって働いて稼ぎ、借金を返済し、生活しながら自国にも送金する。そして必要であれば、また別の学校に入って学生ビザを取得する。こうして稼ぎ続けるが、数年で帰国するという。自国愛、家族愛を大事にする国だからだ。
まさに「出稼ぎ」であり、彼らにとってオーストラリアは極めてありがたい国になっているが、実はオーストラリアにとってもありがたいのだ。なぜなら、学校に通ってお金を落としてくれる上に、自国では人手不足の工事現場などブルーワーカーの仕事を担ってくれるからである。やってもらわなければいけない仕事を、してもらっているのである。
オーストラリアでさまざまな人たちに取材をして実感し、またいろいろ調べてわかったのは、政策が極めて合理的であり、インセンティブ設計もうまいことだ。
例えば、すでに紹介している正規雇用と非正規雇用の賃金差。オーストラリアでは、正規雇用の時給よりも、非正規雇用の時給のほうが高い。理由は明快で、正規雇用は安定しているが、非正規雇用は安定していないからである。
しかも、カジュアル*という最も安定しない働き方の場合は、25%の賃金割増しが義務づけられている。ワーホリで働く人たちが稼げるのは、この割増しがあることも大きい。
*フルタイム、パートタイム、カジュアル(いわゆるアルバイト)という3つの雇用形態がある
いわゆるリスクとリターンの関係である。リスクが大きいものには、リターンが大きい。リスクが小さなものには、リターンが小さい。これは経済原理であり、合理性のある物事のメカニズムといえる。
もっと言ってしまえば、安定を取るか、賃金を取るか、という「選択肢」でもある。高い賃金が欲しいのであれば、安定していない非正規を選べばいいし、安定したいと考えれば、賃金は低いが正規を選べばいい。
例えば、あまり長時間は働けないので、少ない時間で多くの賃金が得たい、という場合には、非正規を選べばいい。賃金は低くても、安心して長く働きたいというなら、正規を選べばいい。「選択肢」なのだ。
つまり、どちらかを選べるのである。そして、賃金はカジュアルより高く、同時に安定もしている、という仕事はない。リスクとリターンでいえば、道理に合わないからである。メカニズムとして、おかしいのだ。(>>【前編】目的は語学よりカネ!無計画で渡航し思わぬ落とし穴も)
■著者
上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年、兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒業。ワールド、リクルート・グループなどを経て、1994年、フリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍、Webメディアなどで幅広くインタビューや執筆を手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品は100冊以上。2014年より「上阪徹のブックライター塾」を開講している。累計40万部のベストセラーとなった『プロ論。』(徳間書店)シリーズ、『外資系トップの仕事力』(ダイヤモンド社)シリーズなど、インタビュー集も多数。著書は、『1分で心が震えるプロの言葉100』(東洋経済新報社)、『マインド・リセット』(三笠書房)、『引き出す力』(河出書房新社)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『成城石井 世界の果てまで、買い付けに。』(自由国民社)など。