「原爆の父」を描いた映画『オッペンハイマー』はクリストファー・ノーラン監督の傑作との声もあるが…(写真:共同通信社)「原爆の父」を描いた映画『オッペンハイマー』はクリストファー・ノーラン監督の傑作との声もあるが…(写真:共同通信社)

「原爆の父」として知られる米国の科学者、オッペンハイマー。その生涯を描いた伝記映画『オッペンハイマー』が世界公開から数カ月遅れで2024年に日本で上映されることが決定した。同作は、広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンが出てこないことや、米国人の原爆軽視が疑われる「バーベンハイマー」騒動などにより日本上映が見送られていた作品。原因となった騒動を振り返ってみると、米国人と日本人の間の圧倒的な価値観の違いが見えてくる。

(杉原 健治:フリーライター)

世界興行収入は1300億円超の大ヒット

 2023年12月7日、映画配給会社のビターズ・エンドはクリストファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』を2024年に日本で公開することを発表した。ネット上では「もう観れないかもと諦めかけていたから嬉しい!」「『オッペンハイマー』見たさにアメリカ旅行を本気で考えてた。配給会社さんありがとう!」といった声が上がるなど、映画ファン、ノーラン監督ファンから大きな注目を集めている。

『オッペンハイマー』は2023年7月21日より全米公開され、現在世界興行収入9億5000万ドル(約1300億円)を超える世界的大ヒットを記録。実在の人物を描いた伝記映画作品として歴代No.1を獲得し、今や「ノーラン史上最高傑作」とも称される作品となった。

 しかし『オッペンハイマー』の日本上映決定がここまで注目されるのは、この映画が単に大ヒットしているから…、というわけではない。

「原爆の父」の生涯を描くが、広島・長崎の姿は出てこない

 背景にはこの映画が、第二次世界大戦中に米国が原子爆弾の開発を目的に進めた「マンハッタン計画」を主導し、「原爆の父」としても知られる理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いていることにある。

原爆を開発したオッペンハイマーは米国の理論物理学者(写真:World History Archive/ニューズコム/共同通信イメージズ)原爆を開発したオッペンハイマーは米国の理論物理学者(写真:World History Archive/ニューズコム/共同通信イメージズ)

 作中で世界でも類を見ない恐ろしい兵器を作ってしまった事実に苦悩するオッペンハイマー。しかし彼自身の苦悩は描かれるものの、この映画に20万人以上が死亡した広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンは出てこない。これに対して批判が集まり日本公開が見送られていたため、今回の上映決定に世間の関心が集まったのだ。