ソフトウエアの開発が合従連衡の導火線に
最後に自動車産業の流れをもっと大きな視点で見ていこう。EVシフトを含むクルマのスマート化が大きな課題となっている。EVは別名、「ソフトウエア・デファインド・カー(ソフトウエアで定義されるクルマ)」と呼ばれる。内燃機関の延長線の発想では競争力のあるEVは開発できない。
そこでカギとなる技術は半導体やソフトウエアの技術だ。こうした領域では、開発を重ねていくほど、コストが飛躍的に下がる傾向にある。これはEVに限らず、ソフトウエアの開発全般に言えることだが、ある程度ソフトウエアのアーキテクチャーを開発すれば、それをバージョンアップしていくための開発コストは初期投資コストに比べればかなり少なくて済むだろう。
また、ソフトウエア領域は、「スケール・オブ・エコノミー」、すなわち規模の利益が大きく影響する領域である。EVでもソフトウエアは開発を重ねていく毎にコストが下がる傾向にある。
クルマのスマート化で日本企業は、米テスラや中国の新興EVメーカーに後れを取っているとされる。巻き返すためにも、あるいは国益のためにも、最低でも日本勢による合従連衡は不可欠ではないだろうか。
そう思いつつ本稿を執筆していた12月28日、トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダなどが自動運転などに用いる車載用先端半導体を共同開発する研究組織を設立すると発表した。こうした発想は、トヨタグループ、非トヨタグループの2極集約の発想を超えた「オールジャパン構想」と言えるだろう。
技術の変化が激しく、しかも莫大な投資が必要な時代になった。加えて世界の政治、経済情勢の不安定化を受けてサプライチェーンの再構築も進む。こうした時代、大胆なアライアンスに躊躇(ちゅうちょ)しているようでは競争に劣後してしまうということだ。
井上 久男(いのうえ・ひさお)ジャーナリスト
1964年生まれ。88年九州大卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年、朝日新聞を退社し、2005年、大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在はフリーの経済ジャーナリストとして自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。 主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。