「誰かにアドバイスすることほど危険なことはない」
中野:これは自戒を込めて言うのですが、誰かにアドバイスするというのは、これほど危険なことはありません。アドバイスする側とされる側は、アドバイスがはじまった途端に、対等な関係ではなくなるからです。アドバイスする側にはある種の権威が付与され、アドバイスを受ける側は、逆に権威と自尊感情を毀損される、という認知的な構造が生じます。
裏付ける実験もあります。アドバイスする側はとても気分がよくなり、アドバイスされる側は不快になるのです。
これは、自分から相手にアドバイスを求めに行った場合でも例外ではありません。「こうするべきだ」と言われると立場が下に感じられる。自分が助言を求めたならまだしも、求めていないのに相手がアドバイスをしてきた場合はなおさら不快になる。
アドバイスをするということはむしろ搾取ですらある、人間関係を壊しかねない危険なものです。
──アドバイスする側は気をつける必要がありますが、思わず、相談している人は気をつけなくていいのでしょうか。
中野:お気持ちはよく分かります(笑)。「あなたが聞いてきたんだけどな」という場合でも、しかし、相手の反応を見ると「この人は相談をしたかったのではなくて、自分の考えを後押ししてほしかったのだ」と気づかされることもあります。もう答えは決まっていて、話を聞いてほしかっただけということは往々にしてあるので、一見相談という形を装ってやって来る人を見分けなくてはなりません。
──もうアドバイスはしない方がいいということでしょうか。