ただし、首都キーウの外交筋は、一連の報道について、「長期戦がロシアを利する要素はあるが、ウクライナ軍内部に乱れはなく、反転攻勢は続く。ザルジニ―総司令官らの発言は、航空戦力、地雷撤去など西側に支援の足りない部分を列挙したものだ。ドイツ政府も援助の倍増を決めた」と述べ、誇張が多いと指摘した。

プーチンはバルダイ会議で「西側との戦争」を強調

 ロシアの通信社は、ウクライナの苦境を伝える欧米の報道を細大漏らさず転電し、ロシアの優位を印象付けている。ウラジーミル・プーチン大統領は10月のバルダイ会議で、「6月に開始されたいわゆる反攻作戦で、推定9万人以上のウクライナ兵が死傷した。作戦は失敗に終わった」と強調した。

 開戦から1年9カ月を経て、戦争目的をめぐるプーチン発言も変化してきた。

 開戦演説では、「ドンバス地方の親ロシア系住民を虐殺から守る特別軍事作戦」「ウクライナのネオナチに代わる非武装中立の新政権樹立を目指す」としていた。

 しかし、今年2月の年次教書演説では、「この戦争は、西側が仕掛けた2014年の軍事クーデターで始まった」「ウクライナとの戦いというより、背後にいるNATO(北大西洋条約機構)との戦いだ」などと語った。

 さらに、10月のバルダイ会議では、「西側は何世紀にもわたり、植民地主義と経済的搾取で途上国を蹂躙した」「この戦争は、より公平な国際秩序を作るための戦いだ」と述べ、BRICS諸国とともに、新国際秩序を目指すと強調した。ロシア側のナラティブ(物語)は、限定軍事作戦から「西側との戦争」へと変質しており、長期戦の構えのようだ。

 停戦交渉について、プーチン大統領は「ウクライナが東部・南部の4州をロシア領と認めることが停戦の条件」としてきた。バルダイ会議では、「ロシアは世界最大の領土を持つ国であり、これ以上新たな領土は求めない」とも述べた。

 ロシアの独立系世論調査機関、レバダ・センターによれば、プーチン大統領が4州確保を前提に停戦を提案すれば、70%が支持すると回答しており、ロシア世論にも戦争疲れの兆しがみられる。

中国が仲介に登場との予測も

 これに対し、ゼレンスキー大統領は昨年11月のビデオ演説で、ロシアとの和平交渉再開の条件として、①領土の回復、②国連憲章尊重、③損害賠償、④戦争犯罪者の処罰、⑤ロシアが二度と侵攻しないという保証――の5項目を要求した。

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