フランスやアメリカでも変化
また、フランスでも、今回のハマスとイスラエルの戦闘に関して、政界で新たな動きが出てきた。極右の「国民連合(RN)」が、イスラエルを支持し、反ユダヤ主義を批判する姿勢に転換したのである。パリで11月12日に行われた反ユダヤ主義を非難するデモに、RNのマリーヌ・ルペン前党首らが参加した。
RNの前身の「国民戦線」は反ユダヤ主義の傾向が強かったし、マリーヌの父で政党の創設者ジャンマリー・ルペンはナチスのユダヤ人虐殺を否定するような言動を繰り返していた。
それが脱「反ユダヤ主義」に方向転換したのは、次期大統領選挙を念頭に置いているからである。前回2022年の大統領選挙では、決選投票がマクロン大統領とルペンとの間で行われ、58.5% vs 41.5% でマクロンが勝った。その前の2017年の大統領選挙決選投票も同じ組み合わせで行われ、66.1% vs 33.9% でマクロンが勝っている。しかし、両者の差は縮まってきている。
仏BFMテレビが、今年の4月に調査会社エラブに委託して行った世論調査では、今大統領選がやり直された場合、決選投票ではルペンが55%、マクロンが45%となるという結果が出た。大統領の任期は2期までとされているので、次期の2027年にマクロンは立候補できないが、今の世論動向を見る上で興味深い。
ルペンは、2027年の次期大統領選挙にも立候補する意向であり、排外主義的、反ユダヤ主義的色彩を薄めて、広範な有権者の支持を調達する戦略である。
私の知人にも「国民戦線」の国会議員がいたが、イベントなどで彼と私が談笑していると、人々が我々から離れていくのである。そのときに、私は、いかに極右の政治家が有権者から忌避されているかを感じたものである。20年前の話である。ところが、今はその拒否感情も薄れ、大統領の座にルペンは近づいている。
アメリカでは、ユダヤ系団体やキリスト教福音派からなるイスラエル・ロビーが強力だが、若者の間ではパレスチナ支持が広まりつつある。10月中旬にCNNが行った調査によれば、「イスラエルの軍事的対応には完全に正当性があるか」という問いに対して、「ある」と答えたのは、65歳以上では81%、50〜64歳では56%、35〜49歳では44%であるが、18〜34歳ではわずか27%である。
このような世論の状況を見て、来年の大統領選を意識するバイデン大統領は、一方的なイスラエル支持から、「戦闘の一時休止(pause)」を呼びかけるなど、軌道修正を余儀なくされている。イスラム教徒やアラブ系アメリカ人にも配慮せざるをえなくなっているのである。
これに対して、トランプ前大統領をはじめ共和党の政治家は、イスラエル支持を声高に叫んでいる。全ては、大統領選挙シフトである。
イスラエル・ハマス戦争は、欧米諸国の内政にも大きな分断の要因をもたらしている。