自分はどうしたらよかったのか、とジヒョクに問う。すべてをがまんして勉学やアルバイト仕事をやってきたのに、という青年に、ジヒョクは厳しくこういう。
若いころ、自分もトライアウト(野球選手が球団にアピールするための入団テスト)を受けるために必死だった。ほかのだれよりも、おれが一番頑張った。
だが君の場合、「努力がたりなかった。もっと最善を尽くすべきだった。バイトなら5つは掛け持つべきだった。のんびり飯も食うな。5時間睡眠? 3時間で十分だ。仕事と勉強のために365日完全にささげるべきだった」
青年は、泣く。
ジヒョクはつづける。これがはじめて聞く言葉なのだ。この男、いつもはモサーっとしてるのに、一転して、こんな凄いことをいえるのか。
「できるわけないだろ。もっと頑張れたとでも? 絶対に無理だ。最善を尽くしても機会がなかったんだ」
青年、顔を上げる。
「世の中のせいにしろ。お前のせいじゃない。そんな生き方しか許さなかった世の中が悪い。だから憤ってもいいが自分を責めるな」
青年、笑みを浮かべるも、慟哭する。
たしかに、自分が悪いのではない、「そんな生き方しか許さなかった世の中が悪い」ということは大いにあるだろう。こんなクソみたいな時代が悪い、と。
もうこれ以上は無理、というところまで頑張りぬこうとした人には、そう考えていい資格がある。自分は悪くない、と。
「世の中のせいにしろ。お前のせいじゃない」とはいっても、それでなにかが変わるわけではない。ただ「自分を責めるな」ということである。状況は変わらなくても、自分はなにをやってもだめだ、無能だ、と思うことはない。とにかく自分を責めないこと。それだけでも、さらに頑張る力になるといいのだが。
君は精一杯頑張った。ならば、自分を責めるな。それは自分を掘り崩すだけで、なにもいいことはない。
これ以上はもう無理、ということはあるだろう。人間は無限に強いわけではない。それはしかたがない。悲しく、つらいことだが、それはもはやしかたがない。
それでも人は殺すな。