映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年)でジェームズ・ボンドを演じたダニエル・クレイグ氏(写真:Photofest/アフロ)
  • ハマス・イスラエル紛争の勃発で、世界の諜報機関の重要度が増している。
  • 10月17日には米国で「ファイブ・アイズ」のトップが一堂に会した。中国を念頭に置いた経済安全保障やロシアによるウクライナ侵攻、テロなど対処すべき課題や情勢は複雑化している。
  • 高度なインテリジェンスを獲得するには諜報機関の人材の多様性が欠かせない。白人男性が演じてきた映画「007」のジェームズ・ボンドにも、黒人の配役を望む声が高まっている。(JBpress)

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 イスラム組織ハマスとイスラエルの紛争で中東情勢が混迷を深めている。10月19 日には紅海周辺に展開していた米海軍のミサイル駆逐艦が、イエメンの反政府武装組織・フーシによって発射された巡航ミサイル、および無人機を撃墜したとの発表があった。米国防総省報道官は、ミサイルなどがどこを標的にしていたかは不明なものの、イスラエルに向かった可能性があるとした*1

*1DOD Responds to Attacks, Continues Efforts to Deter Spread of Israel-Hamas War(米国防総省)

 フーシはイランに支援されており、イスラエル・ハマス紛争が広域に広がる懸念が高まっている。フーシによるミサイル発射に先駆け、今回の紛争の影響が同地域に留まらないだろうとの見解を示したのが、英情報局保安部(MI5)のマッカラム長官だ。

 10月17日、米連邦捜査局(FBI)のレイ長官主催によるセキュリティ・サミットでこの問題に言及した。米英豪とカナダ、ニュージーランドの情報機関で作るいわゆる「ファイブ・アイズ」が公の場で一堂に会するのは史上初だという*2

*2:関連情報
FBI Hosts Five Eyes Summit to Launch Drive to Secure Innovation in Response to Intelligence Threats(米FBI)
ファイブ・アイズとは 英語圏5カ国で機密情報共有(日本経済新聞)


 マッカラム長官は今回の会合が、「権威主義国家」であるロシアや中国の攻撃により、冷戦以来最も大きな脅威にさらされていることを世界に知らしめる「力強いシグナル」であると語った。さらに、中東情勢によって英国内でのテロ攻撃の危険性が高まる可能性にも言及した。レイFBI長官も、ハマスやその他テロ組織が米国内にいる支援者に対し、米国でのテロを呼びかける可能性がないとは言い切れないと語った。

 英国内での脅威についてマッカラム長官は、イスラム過激派や極右、反ユダヤやネオナチなどをあげた。また、イスラエルやその他の当局と共に、ハマスによって拉致された英国人の人質の行方を追うオペレーションに参加していることも示唆した。

 その上、今回はイランの動向も注視すると名指しした。この1年半の間、イランによる英国への脅威は、同国が敵とみなした在英の反体制派やペルシャ語の報道機関などだが、今後の情勢いかんでは、イランが狙う標的が変わる可能性もあると発言した*3

*3:関連情報
BBCのペルシャ語放送関係者が、イラン当局により殺害や強姦予告を受け、またイラン本国にいる家族が逮捕されるなどの事態が報告されている
Iran accused of threatening ‘terrified’ BBC staff in London(英ガーディアン)
MI5 chief warns of Iran-backed terror attacks in the UK(英テレグラフ)