(英エコノミスト誌 2023年9月16日号)

中国では警官を睨むような眼で見ただけで逮捕されるようになるかもしれない

法改正案は一般の警官に恣意的に行使できる新たな権力を付与する。

 習近平氏の下で、共産党が中国史上最も野心的な警察国家を建設している。イデオロギーへの服従と秩序を日常生活の隅々にもたらす法的権力と監視手段を備えた体制だ。

 そのなかで特に注目されているのが、中国の行政処罰の制度による草の根レベルの法執行だ。

 この制度では様々な処罰が定められており、例えば裁判所での審理や判事による逮捕状がなくても警察の判断で身柄を拘束することなどが認められている。

 行政処罰の対象になるのは、より深刻な形の違反行為だと犯罪と見なされる行為だ。

 制度のルーツは古い。帝国だった時代には、役人は違法のレベルには達しない「勧奨できない行為」を罰することができた。

感情傷つける言動も、警官1人の判断で処分

 中国で17年前に導入された「治安管理処罰法」の改正案が、全国人民代表大会(全人代)のウエブサイトで先日公開され、パブリック・コメントの募集が行われた。

 改正案は警察に新たな権限を数多く与える。一部の権限に対しては、中国ではめったに見られない激しい反発が沸き起こっている。

 例えば、改正案第34条では、行政処罰に分類される政治的な軽罪を新たに定めている。

 それによると、中華民族の「精神を損なったり」「感情を傷つけたりする」言葉および行為に及んだ者に対し、警察が罰金を科したり最長15日間拘留したりすることができる。

 この条項は、裁判所で裁くことのできる政治思想犯罪を定めた法律がここ数年間でいくつか設けられたことを受けたものだ。

 市民の間で幅広い懸念を呼んでいるのは、この法案が非愛国的な行動に制裁を加える権限だけでなく、公共社会にとって不快と見なされる衣服やシンボル、さらに共産党が認めた英雄や殉職者への侮辱にも制裁を下す権限を階級の低い警察官に付与していることだ。