(英エコノミスト誌 2023年9月9日号)
ボットを武器に百度がスターの座に返り咲きを果たそうとしている。
「アーニー」という名のボットは物議を醸しそうな科学観の持ち主だ。
8月31日に公開された、この中国最先端の人工知能(AI)チャットボットによれば、新型コロナウイルスは2019年7月に米国の電子タバコ愛用者の間で発生し、その年のうちに米国産ロブスターを介して中国の都市・武漢に広まったという。
対照的に、政治の話になるといささか口が重くなる。
「中国の国家主席は誰ですか」というような質問に混乱し、習近平氏の母親の名前は教えてくれるが、兄弟の名前は教えない。
社会主義の欠点について問われると貝になる。微妙な話になると、「何かほかの話をしましょう」としばしば話題を変えようとする。
厳しく検閲されたインターネットに慣れた中国人ユーザーなら、アーニーが無口になることには驚かないだろう。むしろ、このチャットボットの出自の方に驚くかもしれない。
というのもアーニーは、ライバルの登場によってもう何年も舞台の脇に追いやられていた中国テクノロジー業界の巨人、百度(バイドゥ)の発明品だからだ。
バイドゥはAIのおかげで復活を遂げている。
同社がどの程度成功するかを観察すれば、米国による輸出規制と、ますます強化される習近平国家主席の権威主義体制との板挟みとなっている中国テクノロジー業界の今後がかなり見えてくるだろう。
中国ネット業界の王座からの転落
バイドゥは10年前、中国最大の検索エンジンの運営会社として同国のインターネット界の舞台中央に立っていた。
中国最大の時価総額を誇るインターネット企業2社であるアリババ集団、騰訊控股(テンセント)と並び、その頭文字から「BAT」と称された。
外国の検索エンジンは禁止されたり厳しい検閲を受けたりしたため、その中核事業は競争とほぼ無縁だった。
中国の検索サービス事業での支配力を失ったわけではない。バイドゥは今でも、中国の検索トラフィックの90%超を占めている。
しかし、テクノロジー業界の風景が変わったことで見る影もなくなっていた。