(英エコノミスト誌 2023年9月2日号)
偽情報の制作は容易になるものの、思っているほど大きな問題にはならない。
政治の本質は説得にあるとされる。だが、実際にはプロパガンダに付きまとわれるのが常だ。
選挙運動に携わる人は本当のことを隠し、話を誇張し、不正確なことを言う。白々しいものから罪のないものまで幅広く嘘をつき、それを利用可能なあらゆる手段で発信する。
陰謀論や誤情報はいつの時代も存在した
かつては、ワクチン接種に反対する陰謀論がポッドキャストではなくチラシで宣伝された。
新型コロナウイルス感染症が広まる1世紀前、スペイン風邪が流行した時代には、反マスク派が偽情報の拡散運動を展開した。
米国の公衆衛生長官のメッセージを捏造し、テレグラム(スマートフォンのアプリではなく、文字通りの「電信」)で送った。
この世の中は天使のような人ばかりではないため、選挙が嘘や誤解を免れたことは一度もない。
だが、2024年に予定されている一連の選挙が世界的に意識されるにつれ、新しい悩みの種が浮上している。
これまでは、偽情報は常に人間によってでっち上げられていた。
ところが今では生成人工知能(AI)の技術が進歩し、こなれた文章を短時間で出力したり文章での指示からリアルな画像を創り出したりするモデルもあることから、プロパガンダの合成が可能になっている。
恐れられているのは、2024年の選挙で偽情報を使った選挙運動が異様に盛んになることだ。
何しろこの年には米国、英国、インド、インドネシア、メキシコ、台湾などで大きな選挙が予定されており、合計でおよそ40億人が投票に備える。
果たして市民はどの程度心配するべきなのだろうか。