公正だった「卓越研究大学」選定

 まず選考側から見てみます。良い選考をしたと私は評価しています。

「国際卓越研究大学」の選定にあたっては10人のメンバーからなる「アドバイザリー・ボード」がコミットしていることが発表されています。

 10人のうち2人は女性(ともに日本人)、2人は外国人(アジアと欧米各1人、いずれもシンガポール国立大学関係者)、経済人が3人含まれ(うち女性1人)と、従来の日本のこの種の選定組織とは色合いが変わっています。

 実は、その中には、東京大学関係者も2人含まれています。一人は理学系研究科化学専攻の菅裕明さん、もう一人も理学系で、カブリ数物連携宇宙研究機構長の大栗博司さん。 

 いずれも東大教授ですが、一つ共通点があります。

 それは東大出身ではないということ。変なしがらみで親研究室代々の利権など煮凝りに手足を固められたりしていない。

 大栗さんは京都大学物理学科出身の俊英で、もともと私より2学年上で、修士修了直後に東大助手に着任され、私は物理学演習の担当で板書でも一緒に計算してもらったことがあります(大栗さんは覚えていないかもしれません)。

 実によく切れる、快活な、本物の知性と思いました。

 こういう印象はバカにならないんですよ。例えば、大学1年のとき、質問しようと教師棟をさまよっていた私に声をかけ、シュレーディンガー方程式を一緒に解いてくださった米谷民明先生(東京大学名誉教授)など、本物の切れる知性というのは、日常生活でそれと知れるものです。

 大栗さんに戻りますが、彼は東大とは別に米国のカリフォルニア工科大学教授として素粒子論の一線で世界を牽引、東大がどうの、利権がどうのというレベルの人材ではありません。

 もう一人の菅さんは岡山大学工学部工業化学科、同大学院修了後、渡米してMIT(マサチューセッツ工科大学)で生化学の学位を取得。

 米国での指導教官は日本から頭脳流出した故・正宗悟教授で、彼についても後に触れたいと思います。

 菅さんも同世代、私より一つ上ですが、博士号を得たのち、1994年から3年間米ハーバード大学メディカルスクールのジャック・ショスタク研究室でポスドクを務めました。

 1997年に独立してニューヨーク州立大学バッファロー校着任、2003年頭脳再輸入で東大先端研に着任し、2006年には東大発ベンチャー「ペプチドリーム」設立に参加。

 軒先として東大は出てきますが、スタートから世界の一線で仕事してきたトップランナーです。

 こういう、東大にも浅からぬ関係がある、グローバルレベルの創造的な知性、学術経営のマネジメントも世界水準で知悉する人たちから見て、東大は「初回は見送っておきましょう」と落第させられた。

 では、トップランナーはなぜ「東大案ではダメ」と引導を渡したのか?