第311軍事情報大隊の情報員は現在も、公安警察や公安調査庁など日本政府の公安関係者と接触して情報活動を行っているが、陸自側のカウンターパートが陸幕指揮通信システム・情報部のその担当者たちになる。彼らは主に赤坂プレスセンターで現在も接触を日常的に続けているとみられるが、もはや共同の情報活動のような密接度はない。ただ、自衛隊情報部門のOBが米軍赤坂プレスセンターやキャンプ座間の第311軍事情報大隊関連部署に再就職する例は散見され、それなりの連携は保たれているようだ。

ドラマの「別班」はあくまでフィクション

 別班について近年話題になったのは、2013年に共同通信が「陸自、独断で海外情報活動 文民統制を逸脱」との記事を配信したことだ。同記事によれば、陸幕が別班要員を民間人に身分擬装させてロシア、中国、韓国、東欧などに派遣し、秘密裏に情報活動をさせていたというのだ。この報道を受けて、当時は新党大地の所属だった鈴木貴子・衆院議員(鈴木宗男議員の長女。後に自民党に移籍して外務副大臣も務めた)が国会に質問主意書を提出するなどしている。

 もっとも、筆者の別班関係者への取材では、別班が身分擬装した要員を海外に派遣したといった事実は確認されていない。別班員の多くは陸自の調査学校(現・小平学校)で密度の濃い語学研修を受けており、退官後に海外で貿易業務に携わった人物はいる。そうしたOBの中に、外国で自主的に情報収集活動し、古巣の別班に情報提供していた人はいたようだ。そうした思い出話がいわば武勇伝として話を盛られて周囲に伝えられていた例なら、筆者も聞いたことはある。

 そもそも陸幕がハイリスクなそんな超法規的な活動をするとは考えられないが、陸幕の予算的にも不可能な話だと思う。一部に個人的なアルバイト的に情報収集活動をしたOBはいたかもしれないが、陸幕が組織的に国外で情報活動の偽装工作をするということは、現実的には無理だろう。

 このように、陸上自衛隊「別班」は過去に実在した秘密部隊だが、その実像はそれほど大きなものではなく、しかも現在はもはや存在していない。「VIVANT」の堺雅人と松坂桃李は、あくまでフィクション上の別班員として、肩の力を抜いて視聴しよう。