- ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに注目を集めた「OSINT(オシント)」。ネット上に転がるオープンソース情報を基に、ロシアによる戦争犯罪などを特定する行為のことだ。
- だが、ウクライナ侵攻では評価を得ているOSINTも、一つ間違うと、誤った私刑やネットリンチにつながりかねない。事実、米国ではセックスワーカーの身元特定をゲーム感覚で進める組織も登場している、
- 誰かを一定のルールに基づいて裁き、罰を与えるという行為は極めて難しい。それゆえに、現代社会では警察や司法に委ねているわけだが、今後は「OSINT私刑集団」の登場を次々と目にすることになるかもしれない。
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
注目を集めるOSINT
昨年、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけとなって、ある専門用語が注目を集めた。それは「OSINT(オシント)」。「Open Source Intelligence(オープンソース・インテリジェンス)」を略した言葉である。
「インテリジェンス」はこの場合、諜報活動という意味だ。つまりOSINTとは、「諜報活動をオープンソースで行う」活動を指す。
ちょうどスパイアクション映画「ミッション・インポッシブル」の最新作が公開中だが、諜報活動というと、肉体も頭脳も優れたスーパーマンのようなスパイが秘密裏に行動するというイメージが頭に浮かぶかもしれない。
そんな彼らが狙うのは、厳重に隠された機密情報だ。
機密情報だからこそ世界を救うカギとなるのであって、「誰でも簡単に入手できるような(つまりオープンソースの)情報など何の役に立つのか?」と思うかもしれない。
だが、オープンソース情報だけでも大きな結果を生むケースが増えてきたことから、注目を集めている。
その一例がウクライナの戦場である。
例えば、その名も「OSINT for Ukraine」(ウクライナのためのオシント)という非営利団体は、ロシアによる戦争犯罪を追及することをミッションとして掲げ、OSINTを手法として情報収集活動を行っている。
中心となっているのは大学生や若い専門家たちで、決してトム・クルーズのような敏腕スパイではない。
その中心となる活動「プロジェクト・マウリポリ」では、メンバーがSNSなどに投稿された各種の記事や画像などのデータを集め、そこからさまざまな戦争犯罪の可能性を把握し、種類に分けて地図上にプロットしている。
個々のアイコンが把握された個々の犯罪行為と、その種類を示している。それをクリックするか、右側のサイドバーに表示されたリストから選ぶと、犯罪行為の詳細を確認できる(中には残虐な場面が写った写真も掲載されているので、閲覧する際は注意してほしい)。
以下は「環境破壊」に分類された、「化学施設の砲撃による環境・健康被害の可能性」という事例だ。