米国務省の人身売買に関する報告書(23年版)によると、そのような状況下で生活苦に陥った女性らが、SNSで見た「高給、食事代、住宅家賃無料」といった好条件の求人に飛びつき、結果として人身売買や強制労働の被害に遭っているという。

 同報告書によると、被害者はラオス人にとどまらず、タイやミャンマー、ベトナムなど東南アジアを中心とする外国籍にまで及んでいる。米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカの報道(22年10月10日)では、こうした強制労働の現場から逃げようとすると暴力を振るわれたり、電気ショックに晒されたりし、被害者は身体的、精神的に追い詰められ、逃げ出せないように厳重な監視下に置かれていることが分かっている。

ラオス国内では周知されず

 一方、ラオス国内全体でみると、ゴールデン・トライアングルSEZでの人身売買や強制労働の実態が国内で広く周知されているとはいえないようだ。

 日本貿易振興機構(JETRO)ビエンチャン事務所の山田健一郎氏は、「現地語ではボケオ県の人身売買などの問題についてほぼ報道されておらず、多くのラオスの人にとっては、僻地でひそかに行われていることであって、関心は少ないと感じる」と指摘する。

 ラオス政府関係者も取材に対し、「ラオスの一般市民の間では、ボケオ県で何が起きているかよく知っている人は少ないだろう」と話す。

 現地住民でも何が起きているか把握できていない状況下、外国人がトラブルに巻き込まれれば、問題解決が容易ではないことは想像に難くない。SNSで広まる魅力的な求人条件に惑わされず、冷静な判断が求められている。

【参考URL】
◎外務省のラオス危険情報
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2023T035.html#ad-image-0

◎RFA記事
https://www.rfa.org/english/news/laos/bokeo-shooting-06302023150522.html
https://www.rfa.org/english/news/laos/human-trafficking-12192022185054.html

◎米国務省の人身売買報告書
https://www.state.gov/reports/2023-trafficking-in-persons-report/laos/

◎ボイス・オブ・アメリカの記事
https://www.voanews.com/a/rights-groups-700-malaysians-trapped-in-abusive-laos-scam-centers/6783411.html

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