粛清の嵐が再び吹き荒れているのか

 習近平は権力を掌握して最初に、軍内で圧倒的な実力を持つ2人の退役上将、徐才厚と郭伯雄をありえない方法で失脚させ、陸軍内の彼らの派閥幹部の恨みを買った。以降、習近平は軍による反乱を恐れることになるのだが、一方で、自分に忠実でない軍幹部を排除するために軍制改革を進め、軍区制を戦区制に変えることで陸軍の政治的影響力を削減、陸軍以外の空海軍、新設したロケット軍、戦略支援部隊の影響力を高めていった。

 その過程でざっと100人以上の軍の高級将校たちを粛清してきた。だが、およそ10年にわたる粛清の大ナタを振るっても、まだ裏切り者がいると習近平は疑って、その粛清の嵐は、自分の肝いりでつくったロケット軍や戦略支援部隊の技術屋にまで及んでいるということだ。

解放軍内でも習近平による粛清が行われているのだろうか(写真:新華社/アフロ)

 この軍の粛清問題は、今は噂をつぎはぎしたような程度の情報しかないが、8月1日の建軍記念日に合わせた式典に誰が欠席しているかなどの情報をつきあわせて、噂の角度はもう少し高まるだろう。

 仮に本当に解放軍内で、こうした異常な粛清が行われているとしたら、この背景にあるのは、今起きている外交部の異常事態と共通するものではないか、と私は想像している。いずれも米国に対する情報漏えいが疑われているのだが、なぜ外交部や解放軍の幹部たちが米国に情報漏えいするのか。あるいは情報漏えいを疑われるようなことになるのか。

 それは米中関係が先鋭化しすぎて、外交部や軍の現場で台湾有事、あるいは米中戦争が起きうるという危機意識が高まっていることと関係があるのではないだろうか。

 外交部の対米外交当事者や軍当事者にしてみれば、今はいかに戦争を回避するかを必死に考えているだろう。偶発的な衝突を避けるためにも、あるいは誤認、誤解を避けるためにも、米国側と連絡をとったり情報交換を深めたりしたいと思うのが、まっとうな外交担当者、軍幹部の考えだ。