『THE DAYS』Netflix公式サイトより

 役所広司主演のNetflixシリーズ『THE DAYS』は、福島第一原子力発電所の事故を描いた災害ドラマだ。「事実に基づく物語」をうたい、最悪ランク「レベル7」の事故を細部まで丁寧に再現し、その場に立ち会っているかのような感覚で原子力災害の怖さを淡々と伝える。6月1日の世界公開以降、非英語部門ではトップ10にランクインするなど人気があるようだ。

 ただしメインの宣伝コピー「これは天災か、それとも人災か。」は看板に偽りあり、だろう。

 役所の演じる吉田昌郎・福島第一原発所長が、所長就任前の約3年間にわたり東京電力の本店で津波の想定や対策をする部門の責任者を務めていたという「もう一つの顔」に全く触れていないからだ。

 吉田が責任者の時期に、東電は津波対策で他の原発に後れをとり、それが事故を招いた*1。そんな重要な背景情報が抜け落ちているから、「事故の真相/深層をぎりぎりまで追求した」(プロダクションノート)ドラマかと思って視聴すると肩透かしをくらう。

*1 事故は防げたかどうか、人災なのか天災なのか、裁判所の判断はまだ分かれている。住民らが損害賠償を求めた民事訴訟の最高裁判決(2022年6月)は、国が指示して対策を取らせていたとしても、津波は想定外に大きかったので事故は防げなかったと判断した。4人の裁判官のうち1人はこの判決に反対し、事故は事前の津波対策で防げたと意見を書いている。東電役員に賠償を求めた株主代表訴訟の東京地裁判決(22年7月)は、役員が対策を取らせていれば事故は防げたとした。一方、役員らの刑事責任をめぐっては、東京高裁(23年1月)は無罪としている。民事訴訟で、最高裁判決後の初の高裁判決となった仙台高裁の判決(23年3月)は、東電の対応について「津波により浸水して重大な事故を起こす危険が具体的に予見されたにもかかわらず、これに対する被告東電の対応は、原子力発電所の安全対策についての著しい責任感の欠如を示すものである」と断じている。

東日本壊滅の再現度はリアル

 事故の再現度は、とても優れているように見える。

 建屋のロケには千葉県の廃工場を使い、原発所員にも監修してもらっているという。突然の原子炉建屋爆発に作業員が巻き込まれるシーン、線量の高い建屋内を駆け抜け命がけでバルブを開ける作業に向かうシーンなどは、すでに知識としては知っているのに、映像で見るとハラハラする。決死隊が建屋に突入する第4話と第5話は、映画『リング』などでホラーの名手として知られる中田秀夫が監督している。

 死に至る高い放射線の恐怖のもとでも、事故収束に立ち向かった現場の所員や自衛隊の活躍と葛藤。必要な物資さえ送り込まないまま「なんとかしろ」と現場を怒鳴るだけの東電本店。国の危機が迫っているのに情報不足に苛立つ官邸。それぞれの様子がよくわかる。わずか12年前に、東日本壊滅の一歩手前の事態が迫っていたことを多くの人がもう忘れかけているが、それを再び実感することができるだろう。